第247話 学校潜入編35
「熊岸警部、猫谷刑事、お疲れ~」
「なにかやらかしてないでしょうね?」
にこにこと殺害現場の裏庭の丸い石に腰かけたまま、戻ってきた熊岸警部と猫谷刑事を見て、砂橋は手をひらひらと振った。猫谷刑事が確認するように無表情でそう問いかける。砂橋が素直に答えないと思ったのか、彼は俺の方を見た。
「やらかしてはいない、と思う」
庭崎に事件の話をしてしまったが、それは目を瞑ってもらえるはずだ。
「それで?葛城颯太の行方は?」
「さっき報告を受けた。ネット喫茶に昨日の夜からいるらしい。今は警察署で事情聴取をしている」
「やっぱり、いじめの被害者になりすまそうとしていたの?」
砂橋の言葉に熊岸警部は深いため息をついた。
「事情聴取は最初の方は、自分がいじめの被害者だ、自分は正当防衛したんだ、と言い張っていたな。嘘だと分かったが」
どうして、嘘だと分かったのだろう。
熊岸警部と猫谷刑事は二年二組の生徒と一度も話していないはずだ。
「葛城颯太は、被害者のスマホと財布を盗んでいたが、同時に自分のスマホも持っていた。そのスマホの中を確認したら、颯太が祐樹に送ったとされる大量の罵詈雑言のメッセージや葛城祐樹が颯太を夜の学校に呼び出した内容が書かれていた」
「呼び出されて、まんまと颯太くんは学校に来たの?」
その質問に熊岸警部はまたため息を吐いた。
ここまで聞いて分かる。
犯人である葛城颯太の計画は杜撰すぎる。
なり替わろうとしたのであれば、元からある自分のスマホは処分すべきだった。まさか、人を殺しておいて、スマホを手放すのが惜しいというわけではないだろうに。
「本人に聞いたら、彼は金品の受け渡しをずっと被害者に要求していたらしい。だから、のこのこと出かけていったんだ。そして、先に夜の学校に侵入していく被害者が襲い掛かってきた時にもみ合いになり、池に落とし、そのまま殺害したそうだ」
祐樹も確実に颯太を殺せるという確証がなかったのだろうか。スタンガンくらい持っていてもよかったものだが。
「颯太くんは祐樹くんの荷物を持ち去っていたんでしょう?何が入っていたの?」
「スタンガンに果物ナイフだな。あとは着替えだったが、その着替えは返り血を浴びていた颯太が使っていた」
鞄からスタンガンを出す暇がなかったのか。
いや、そういえば、昨日はどしゃぶりだった。
そもそも素人が人を殺すことができるかも怪しい天候だっただろう。
今更、祐樹の殺人計画に穴があったことを指摘しても、祐樹は死んでしまっているからどうしようもないのだが。
「もうすぐ十二時かぁ。そういえば、お腹すいちゃった。どう?熊岸警部と猫谷刑事もこれから一緒に昼ご飯とか」
「俺たちは遠慮しておく。まだやることは残っているしな」
「それは残念」
熊岸警部が断ると砂橋は肩を竦めた。砂橋が「なに食べる?」と昼食について話し始めながら、裏門へと向かう背中を俺は追いかけた。
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