第245話 学校潜入編33


 テーブルの上に投げ出されている砂橋のスマホが震えた。話の途中だが、砂橋はスマホを手に取った。


「あ、もしもし。熊岸警部?そっちはどう?」


 この場にいるのが俺だけだったら、スピーカーにしていたのだろうが、今この場には捜査には関わることができない庭崎と七瀬がいる。


 もぞもぞとスマホから人の声らしきものが聞こえるが、俺には熊岸警部がなんと言っているか分からなかった。


「ああ、うん。そうだと思ったよ。たぶん、葛城颯太くんはいじめの被害者である葛城祐樹くんと立場を入れ替えようとしたんだ。その方が刑が軽くなるかもしれないからね。SNSも乗っ取ってるみたいだから、立場の入れ替えをしようとしているのは確実かも」


 砂橋の口ぶりからして、死体が誰か判明したのだろう。

 そうだと思ったということは死体は祐樹だったのか。


 顔も他人に判別ができないほど破壊して、SNSも乗っ取っているのだ。これはもう言い訳ではないのではないか。


 それにしても杜撰すぎる計画だが。


「え?生徒達には何も言ってないよ~。せいぜいタピオカをオシャレだからって飲んでるだけで好きじゃないかどうか聞いただけ~」


 生徒達に余計なことを言っていないかどうかの確認をしたのだろうが、これはなんとも言えない。庭崎にはもうすでに殺人事件のことをこれでもかというほど聞かれてしまっているのだ。


「うん。今から帰ってくるの?それじゃあ、僕らは校長先生に依頼の報告だけして、帰ってもいい?もう事件はそっちに任せても大丈夫でしょう?」


 砂橋はその後、何度かうんうんと頷くと通話を終了させた。


「それじゃあ、僕は校長先生のところに行かないといけないから」


 そう言ってさっさと砂橋は生徒指導室を出て行ってしまった。


 事件の概要を聞いてしまった七瀬と庭崎へのフォローなどするわけがないと分かっていたが。


「……七瀬」


 俺が声をかけようとした時、七瀬は庭崎に向かって頭を下げた。


「……ごめんなさい、庭崎くん」


「え?」


「あなたがせっかく殺人事件を止めようと私に知らせてくれたのに、私、何もできなかった……いじめも分からなかった……教師失格よ」


 いじめを気づけなかったのは、もしかしたら被害者である祐樹が大人にいじめの存在を知られないようにひた隠しにしていたからかもしれない。


 全部が全部気づけなかった七瀬が悪いわけではないが、それでも彼女はこのまま二年二組の担任を続けることができるのだろうか。


「……七瀬先生、たぶん、誰が担任になっても、事件は起こってたと思います。だから……その……」


 庭崎はなんと言えばいいのか分からないようで言葉を探していた。俺は助け船を出すべく、頭を下げたままの七瀬の肩に手を置いた。


「七瀬、一緒に校長室に行こう。庭崎は教室に戻るんだ」


「わ、分かりました……」


 俺は七瀬と庭崎を連れて生徒指導室を出た。


 一階へと向かう階段の踊り場で壁に背をつけて待っている砂橋が俺の姿に気づいて「話し合いは終わった?」と聞いてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る