第15話・二十三夜目の夜〈煤木治療〉

騒動の最中。

煤木仄は用意された客室で目を覚ます。

ぼんやりとした顔をした彼女は、外が騒々しいと寝惚けた頭を巡らせた。

ばん、と急に戸が開かれる。

その音に反応して、煤木仄は布団で我が身を隠した。

彼女の姿は、キャミソールとパンツと言う極めてラフな格好であり、誰かに見られるのは恥ずかしかった為だ。

だが、そこに居るのは旭日君夜と錆月季咲良の二名であり、女性であるからと安堵の息を洩らすが、二人が抱える男性の姿を見て、煤木仄は悲痛の声をあげた。


「ふ、しまくんッ!」


彼の体は濡れていた。

同時に、腹部からは血が溢れている。

出血による意識の低下と見てまず間違い無いだろう。

パンドラ女学院は福祉系の学校でもあり、彼女は人の役に立つ看護師を目指していた。

過去に襲われ、心を奪われた彼女は、常坂黄泉に術師としての才覚を見出され、医療方面に力を伸ばす様に医療や人体の知識などを享受されている。


「布団の上に乗せて下さい、服を切るので鋏を」


「時間が無いので、私が切りますねぇ、どの様に切れば良いのですかぁ?」


服が濡れている為に脱がす時間が惜しい。

煤木仄は伏間昼隠居の着込んでいるシャツを正中線をなぞるようにして指示をする。


「(待っててね、伏間くん、今、たすけるから)」


煤木仄は増殖術理を行使して、まず伏間昼隠居に顔を近づけると、彼の咥内に自らの舌を押し込む。


「っ、何をしているの、でしょうかぁ?」


接吻に敏感な旭日君夜は煤木仄の行為に説明を求めるが。


「ん、ちゅ……説明しても良いです、けど。時間が過ぎる度に、生存率が下がるんです。一分一秒、私は伏間くんに捧げたい、貴方は、伏間くんを救いたくはないんですか?」


真剣な瞳が旭日君夜に突き刺さる。

刀を収納する旭日君夜は頷くとその場から立ち去ろうとする。


「剣客さまは大事なお人ですのでぇ、宜しくお願いします。私たちは、異常が無いか確認しますのでぇ」


そう言って、錆月季咲良を連れて旭日君夜はその場から離れた。

伏間昼隠居と煤木仄は二人となったが、それで浮つく様な真似はしない。


「ん……ちゅぴ」


口の中に自らの中指と薬指を咥えて唾液を付着させると、濡れた指で貫かれた腹部に指を突っ込む。


「(増殖術理〈細胞同治〉)」


自らの唾液と指先の細胞に流力による変化を齎して、彼女の指が伏間昼隠居の中へと溶けていく。

細胞が変異していき、伏間昼隠居の肉に張り付くと、傷ついた細胞や臓器に癒着し同化していく。

彼女の細胞は他人に置換する事が出来る術理であり、指が完全に伏間昼隠居の傷口を塞ぐと、彼女は体力を消耗しながら、安堵の息を吐いた。


「(こ、れで……あとは点滴、回復を、見るだけ、で良し……)」


指を見る。

彼女の中指と薬指は消滅していた。

伏間昼隠居の中で彼女の指が溶けているのだ。

術理を使い、自らの細胞を移動。

骨と血管と肉と神経を形作り、指を形成した後は、疲れによって彼女は目を瞑った。


「これで、うん、大丈夫だよ、伏間くん」


そして、伏間昼隠居を救えた事に安堵をして、休息を取るのだった。


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