第10話・二十三夜目の昼〈残刀狩り〉
「ふくろう、あんたは私たちと義了を潰す事になったから」
「まあ、当然と言えば当然ですね」
廊下を歩きながら、伏間昼隠居は試刀寺璃瑠華が用意した作戦資料に目を通す。
「構成メンバーは斬人衆を三十名、末席衆を十名、十剣騎衆第一、第四、第七と私、それとさっき言ったみたいに、ふくろうだから」
現在、斬人衆の三分の一(約六十四名)、末席衆が二分の一(約二十八名)、十剣騎衆の第二席、第三席、第四席、第五席、第六席、第八席、第九席の七名が一刀谷義了側に付いている状況だ。
それを考慮して思考を巡らせて、何か見落としている事に気が付いて再び資料を確認する。
今回の作戦に、試刀寺璃瑠華も参加していた。
「はい……はい?」
二度、三度見る。
しかし、文字の言葉と内容は変わらない。
「あの、お嬢も行くんですか?」
「……え?当たり前じゃん」
さも当然の様に言い返す。
「全然当たり前じゃないですよ……何考えてるんですか、仮にも、御当主なんですから」
「折角の斬人衆がカチ合うんだけど。そんなお祭り、見過ごせるワケ無いじゃんか」
狂気と無邪気を孕んだ瞳を向ける。
まるで自分が死なないと知っているかの様な口ぶりだった。
「死んだらどうするんですか?」
「私が?そっか、それもあるか。でも、その為に居るんでしょ?懐刀がさ」
とん、と。
伏間昼隠居の胸に、試刀寺璃瑠華の拳が叩かれた。
「(こ、この人は……)」
彼女の無責任な言葉に溜息が出そうだった。
だが、彼は懐刀であり、彼女が守れと言うのならば、命を捧げても守る使命がある。
「それに、義了は私を殺せない。試刀寺家には私が必要だと知ってるから」
「俺は別に付き合いとか長い方じゃないですけど……その爺さんがお嬢を殺さない理由なんてあるんですか?」
むしろ長いのは一刀谷義了の方だろう。
だからこそ、彼女があの老人が自分を殺さないと言う自負を持つ。
「試刀寺家の血筋を継ぐのは、私しか居ないから」
「………(確か、珀瑯は……)」
試刀寺珀瑯。
彼は彼女と同じ姓を背負うが、血は繋がっていない。
「私はお父さんしか居なかった、けど、そのお父さんは小さい頃に、珀瑯が殺した。だから、試刀寺家は私しかいないんだ」
父親を殺害した珀瑯に対して、試刀寺璃瑠華は特別な感情を抱いていない。
復讐も感嘆も、あるのは恐悦と言う感情。
試刀寺珀瑯は弱肉強食の理で生きる獣。
その計り知れない存在に彼女は保護と言う名目で試刀寺の姓を授けたのだ。
「なんて、話をしている場合じゃなかったよね、さっさと準備でもして、行こうか」
スティックキャンディーを包む包装紙を剥がして、水色の飴玉を薄桜色の唇に突っ込んだ。
「残党改め、残刀狩りに」
そして歩き出す。
その足取りは興奮のあまりダンスでもしそうな程に軽やかだった。
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