第96話 カツ丼
久しぶりに小諸へ出張した。
山形新幹線から大宮で北陸新幹線に乗り換え、佐久平駅でローカル線の小海線に乗り換え、小諸駅に着いた時にはお昼を少し過ぎた頃である。
山形を出たのが朝7時過ぎだったので、5時間位かかった計算になる。
それでも、頻繁に来ていた十数年前に比べれば随分早くなったものだと思う。
軽井沢や浅間山・懐古園などの観光地も多いし、近くを新幹線も通っているのだから、小諸駅前などはさぞかし変わっているのだろうと思っていたが、列車を降りた瞬間、懐かしい駅舎と家並みが目に入り少しホッとした。
駅前の広場を横切り蕎麦屋に入った。
入り口には「名物信州蕎麦」と書かれた黄ばんだ張り紙がパタパタ風に揺れている。
店内はガランとして、お客は私一人であった。
品の良いおばあちゃんが番茶を入れた茶碗を持ってきた。
「いらっしゃいませ なにがよろしいしですか?」
「んだなぁ...何が んまいんだっす?」
「おそばも美味しいですけど カツ丼なんかはいかがですか?」
「蕎麦屋でカツ丼 勧めるんだがっす めずらすいね」
「うちのカツ丼は特別製ですからね」
「んじゃ たのむっす」
しばらくして美味しそうな香りとともにカツ丼が運ばれてきた。
カツをつまんで口にほおばると、衣がカリカリしている。
「うちのカツ丼は揚げたてのカツを使ってるんですよ」
うなずきながら食べている私の姿を見て、おばあちゃんはニコニコと満足そうな顔をしているのがとても印象的で暖かい気持ちになった。
「名物信州蕎麦」も良いのだが、隠れた名物「信州カツ丼」の味が忘れられない出張であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます