第88話 湯あたり

気の合う若手経営者の後藤君、高橋君、鈴木君の三人と温泉に一泊し飲もうと言うことになり、瀬見温泉に出かけることになった。

山間のひなびた温泉なのだか、その素朴な雰囲気が評判なのか結構お客さんが多いらしい。

我々が泊まるのは「ほてい屋」という旅館である。

20名も泊まると満員になるような小さな旅館だが、食事の良さで人気があるようである。


6時過ぎに到着し、さっそく一風呂浴びて宴会が始まった。

食べきれないほどの料理に舌鼓を打ち、地元のお酒で気分も盛り上がった頃、お酌をしてくれた仲居さんが温泉の効能を説明してくれた。

「こごの おんしぇんは 冷え性さ効ぐんだじぇ」

「んだのが んでも おらだ冷え性んねがらなー」

「ほれがらよ 夜の12時になっど 男湯ど女湯ば入れ替えっから 気つけでけろな」

「なに!?...」

それを聞いた我々は顔を見合わせニヤリとした。

おそらく全員が同じ事を考えたのだろう。


10時頃から麻雀が始まった。しかし、時計をチラチラ気にしながらの麻雀で、落ち着かないのである。

半荘が終わり12時少し前になった頃、誰が言うともなく全員タオルを持って立ち上がった。

いざ大浴場へ....

男湯ののれんをくぐり脱衣場に入った。幸い誰もいない....

脱ぎ捨てた浴衣を丸めロッカーの陰に隠し、静かに湯船に身を沈め待つこと10分。

「おぃ鈴木君 外さ行って 見できてけろ」

「んだが 見でくるな」

戻ってきた鈴木君はニヤニヤしている。

「女湯の のれんに 替わったっけ えへへ」

よーし!全員待機!


さらに15分経過...だいぶ暑くなってきた。

「オレ 暑くてだめだー」

「きもずわれぐ なてきたずは...」高橋君は白目をむいている。

他の連中もグッタリしてきた。

「だめだ...あがっべは...」

湯船から出た途端、目の前がクラクラして両手を付いた。

立って歩けない状態である。

四つん這いになって大浴場のドアを開け脱衣場に出る。

残りの連中も四つん這いである。

こんな姿を他人には見せられない...急いで着替えなければ...


パンツも履かずに浴衣を着て外に出る。

足がもつれて転びそうになる。

手すりにつかまりながら階段を登っているのだが足が上がらない。

その時、3人連れの若い女性が降りてくるところであった。

大浴場に行くようであるが、すでに戦意を喪失した我々は階段の途中でグッタリしているだけである。

すれ違いざま、一人の女性が「きゃっ!」と叫んだ。


視線の先を見ると、はだけた浴衣の間から後藤君の貧弱な一物が顔を出しているではないか....

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る