第80話 中央分離帯

今日で正月休みも終わり、明日からはいつもと変わらない月曜日の始まりである。

連休後半からは雪も降り始め、積雪は現在20cm程度だが、ちょっと郊外へ出ると50cm以上もの積雪となっている。

明日は、いつもより通勤時間が長くかかるだろうから、早めに家を出る必要が有るだろう。

しかし、この一週間の間、起床時間が徐々に後倒しとなり、今日現在で4時間近くシフトしてしまったのである。

明日からは6時前には起きなければならない。早起きには自信がない....


そう言えば何年か前、この辺でも珍しいくらい大雪になったことがあった。

一晩で50cm以上も積もり、家を出るのに車を掘り出し、やっとの思いで道路に出ても大渋滞。

1時間で100m程度しか進まない車に閉じこめられ、5時間近くも立ち往生。

そして、時間の経過とともに、予想された深刻な状態になってきたのである。

「あぁ~... むぐりそうだ...」

腰をもモゾモゾさせても、こればかりは我慢できない。

額には脂汗が滲んでくる。

片側2車線の道路には車があふれ、前後左右身動きがとれない。

「もうがまんでぎね!」

運転席のドアを開け、中央分離帯に上りズボンのファスナーを開ける。

ほのかに立ち上る湯気とともに額の汗も引き、まるで春が来たような爽快な気分が全身を包み込む。

うっとりとした絶頂感....ふと気が付くと、私の周りには同一行動をとる何人もの人影があった。

全員が口を半開きにして、うつろな眼差し。中には、慌てたためファスナーが開かずヒーヒー言っている者もいる。


その日の朝は、何とも異様な通勤風景であった。

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