第70話 真剣勝負

恒例となった社内ビアガーデンが開催されることになった。

今年は連日猛暑が続き、冷えた生ビールが最高の夏である。

会場となった事務所前の駐車場には特設ステージやテントが張られ、気の早い社員達がジョッキを片手に「乾杯!」の気勢ををあげている。

「はやぐ んぐべは~」

経理の原田君は仕事など手に付かない様子である。

「ビール んまいべな~」

渇いた喉を通過する生ビールの感覚を思い出しながら会場に向かった。


冷えたジョッキを数杯空け気分が良くなってきた。

「おい原田! 彼女でぎだがや?」

「いや~ だめなんだずぅ...」

30歳を過ぎた原田君は未だ独身である。

「しょうがねぇなぁ オレなの 今だて 若いオネーチャンに もでっじぇ」

「うそだべ~! なんぼなんだて 無理あるなぁ」

「なに~!? んだらオレど 勝負すっか!」

「よ~し んだら あそごのオネーチャンで勝負だ!」


見ると、焼き鳥コーナーで女子高生二人がバイトをしている。

「ちょっといいがっす?」

「はい なんですか?」

「二人に しつも~ん?だっす」

「はぁ?」

「オレは中年オジサン だけど地位と名誉と小金持ち こいつは若くて独身だけど何もない どっちば選ぶ?」

「はぁぁ?」

この二人に、中年オジサンと独身原田を選択して貰おうと言うわけである。

二人は一瞬戸惑ったように顔を見合わせたが、ゲラゲラ笑って答えようとしない。

「ほだえ笑わねで ちゃんと答えろずぅ」

「んだんだ 真剣勝負なんだがらよ」

「オレのほうが 良いべ?良いべ?」

自分が選ばれると確信したように独身原田は詰め寄った。

しばらく彼女たちは小首をかしげていたが、そして示した指先は...


「おい原田... 」

「もういいっす... 」

「まぁ飲め... 」


翌日、体調不良で原田君は欠勤した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る