第59話 挨拶

出社して事務所へ向かって歩いていると、食堂のおばちゃんが近づいてきた。

「オ・ハ・ヨ・ゴ・ザ・イ・マ~ス」

覚え立ての日本語である。

ベトナム人が気を遣って日本語の挨拶をしてくれるのだから、当然ベトナム語で返事をしなければならない。

(え~と、挨拶はすべて「チャオ」だし、「チャオ」の後には人称代名詞を付けて...おばさんは「コ」だけど、おばさんでは失礼だから...えーと年下なんだから「エム」がいいか)

「チャオ エム!」

一瞬怪訝な顔をしたが、その後満面の笑みを浮かべ頷きながら立ち去っていった。

(何か間違ったのだろうか? でも喜んでいるようだし問題ないか...でも何か変だ...)


急いで事務所へ入り、ダイちゃんに質問した。

「いまよ 食堂のおばちゃんさ挨拶したんだげんと なんだが変なんだず」

「ナント イイマシタカ~?」

「おはようございます て挨拶すっから チャオ エム!てゆたんだげんと...」

「エ~ッ チャオ エム デスカ! チョット モンダイデスネ」

側で聞いていたロック君がゲラゲラ笑っている。

「なにおもしゃいのや? なにが変だが?」

「ソノ アイサツハ 男ガ女ノ恋人ニイウ アイサツデ~ス」

「あちゃ~ 勘違い さっだべが」


その答えは昼休みに判明した。

山盛りのおかずと、山盛りのご飯...おばちゃんはニコニコ顔である。

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