第49話 猫の手

事務所へ戻ると、日本語を勉強しているダイさんが駆け寄ってきた。

「チョット オーシエテクーダサイ」

「ん? なにや?」

紙に書かれた日本語を指さし、意味が知りたい様子である。

鉛筆でなぞるように書かれているのは『猫ばば』という文字である。

「猫ばば! むずがすい言葉だずね~ 意味も むずがすいね~」

「ソーデスカ ムズガスイ デスカ?」

「んだな~ むずがすいなぁ 『ちょろまかす』ごどなんだげんと...」

「チョロマカス!? ソーレハナンデスカ?」

ますます分からないと言いたげな顔である。

「あのよ 悪いごどしても 隠して誤魔化すごどなんだ わがっか?」

「ネコ ワカリマース デーモ ババ ワカリマセーン」


『猫ばば』とは本来「猫糞」と書き、猫が糞をしたあと前足で砂をかけそれを隠す習性があることから、悪事を隠すことの例えになったのである。

そんな説明は、日本人になら簡単に説明できるのだが、日本語覚え立てのダイさんに理解してもらうには相当の時間を要する。


1時間以上もかけ、ようやく納得したと思ったら、更に質問責めである。

「アノ~ ネコノテ トハナーンデスカ?」

「ナヌ? 『猫ばば』の次は『猫の手』が~?」

「ニホンゴ ムズカシーデースネ~ ネコニハ テガアリマセーン」

「....」

確かに猫には手が無い、正確には前足と言うのだろう。

それにしても、猫がらみの質問に答えているうち仕事が滞り、猫の手も借りたい忙しさになってしまった。

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