第32話 経験何人

品質関係の定期監査が実施された。

監査員は、百戦錬磨のベテラン水口さんである。

一見優しそうな顔立ちをしているが、少しのミスも見逃さず、ギブアップするまで追求の手を緩めない完璧主義者である。


事前準備に時間を掛け、想定質問なども研究し尽くしたはずなのに、課長連中は落ち着かない様子。

それ以上に気が気でないのが、一般社員である。

監査の最中に突然事務所に現れ質問されるし、答えが悪いと納得するまで質問責めである。女子社員などは、当日休む者まで現れる始末。

「わだし きがんねど いいやー」

「しんぱいで きんな ねらんねっけ」などと、緊張した顔で仕事をしている。


そんなことは気にも掛けない様子で、水口さんは監査を始めた。

「えーと それでは今日は一般社員の方から先にチェックしましょう」

これは大変なことになってきた。事務所へ先回りし、状況を伝えるが既に遅し。

監査部隊が事務所に入ってきた。逃げ遅れた人達がオロオロしている。

「えー今から 皆さんに少し質問しますので リラックスして答えて下さい」

さっそく質問が始まった。

犠牲者は入社7年目の由紀子さん。緊張のせいか、指先がふるえている。


「えー あなたは経験何年ですか?」

「えっ! ..... 二人...だっす...」

何を勘違いしたのか...顔を赤らめ、うつむきながらこう答えたのである。


山形の女性は、なんて素直なんだろうと感心してしまう出来事であった。

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