第21話 赤い帽子
新型コロナの影響も重なり売り上げが低迷し、経理からは経費節減の通達が出されている。
コピー用紙を買うため認可を貰うにも、大変な労力が必要なのである。
まして多額の設備投資となると、稟議書に分厚い説明資料を添付しなければならない。
その上、書類を回覧しただけでは駄目で、常務や専務の認可を貰うためには説明が必要なのである。
いまどき時代遅れだと思いながら幾つものハンコを貰い、やっと社長室に辿り着いたときには、説明内容を丸暗記したうえ質問の予想が出来るほどになる。
社長室をノックし部屋に入った。
「社長 設備投資の認可を貰いたいんだ げんと...」緊張して共通語を使ったつもりだが、語尾が山形弁になってしまう。
「おぉ そうかそうか どれ説明してくれや」
「この案件は....」ここに来るまで何度も繰り返した内容に、想定される質問の答えまで付け加えて説明した。
「部長が ほごまでゆうんなら 認可すっべ」
社長の答えに、緊張した気分も幾分ほぐれたのだろうか、サイドボードの上に置かれた赤い物体が目に入った。
よく見ると真紅のカウボーイハットである。何だか場違いなような気がする。
「社長 あの帽子は なになんだっす?」
「ハハハ あれか~」良く訊いてくれたと言わんばかりである。
「あれはよ 取引先の三井社長からもらたんだ 還暦のお祝いだど」
「ほ~ んだっけのが」
席を立ち、真っ赤なカウボーイハットを手に取った社長はおもむろに頭に乗せた。
「ほれ どうだや」
どうだと訊かれても答えようが無い。
更に社長はお尻を突き出すようなポーズをした。
「ほれ モンローが こだなかっこ しったっけべ? しゃねが?」
「あぁあぁ... んだなっす...」
比較的背の低い社長と、マリリン・モンローが結びつかないので頭が混乱する。
どちらかと言うと、お茶目なキューピーが赤い帽子をかぶった雰囲気である。
「なんぼ還暦だて 社長が赤い帽子かぶたらダメだべ なんだが会社 赤字になるみだいで....」
「ウム....」
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