第20話 バックウォーキング

お盆が近づくと、あちこちに散らばっている仲間が戻ってくる。

後楽園球場(今は東京ドーム)でバイトをしているうちに本業になってしまった川原、仙台に住んでいる舟山、患者と喧嘩ばかりしている看護士の庄司、地元のFM局で最近までカントリーウェスタンのDJをやっていた大木、みんな楽しい仲間である。

戻ってくれば、誰が言うともなく集まって宴会になる。


酒の好きな連中なので飲み始めたらエンドレスになるのだが、最近は年のせいか随分酒量も減ったような気がする。

「おい おらだ 最近あんまり 飲まねぐなたずね」

「んだな~ やっぱ年だがらな~」

「オレなの ガンマGDPだのコレステロールだの 健康診断でひっかかるんだず」

「おまえもが...オレもだず」

気持ちだけは若くても、健康を気にする年になってしまったのである。


「少し運動すねどダメなんだべした 舟山おまえ何がしったがや?」

「運動なて...たまにゴルフするぐらいだな」

「庄司おまえは?」

「オレは まいにぢ1時間ぐらい 歩いでるんだ」

「やっぱり歩ぐのが いいんだべずね 大木おまえは?」

「オレは良いごど しったんだ」

「おー なにしったのや?」

みんなが注目する。

「普通に歩いだのより 10倍も効き目ある歩ぎがだ あるんだ」

「ほー 時間ないどぎなの 最高だべず 10分歩いでも100分歩いだごどになるんだべ?」

「んだ んだ」

普通に歩いたときより、10倍も運動量のある歩き方など有るのだろうか? 

「どだな 歩ぎがだや? 早くおしぇろちゃ」

「後ろ向きに歩ぐんだべ」

「....? 後ろ向ぎ?」

「バックウォーキングって いうんだじぇ」


本当に後ろ向きに歩くと、カロリーの消費量が10倍になるのか真意のほどは定かではないが、本人は大まじめで毎日後ろ向きに歩いているのだそうだ。

もし、七日町商店街を後ろ向きに歩いている中年オジサンを見かけたら、それは大木君である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る