副詞

 ここまでマニアックな話をつづける創作論を、寡聞にして他に知らない。嘘。筒井康隆のは斜め上にマニアックだった。地味にシリーズ化しているあたり侮れない御方だ。最近、実生活での行動がいつにもまして理解可能で心配になるが(私は通販生活のCMで枕を抱いておられた先生が可愛らしくて好きでした)。


 さて副詞とは何か。いわゆる修飾語である。「ゆっくり」や「すぐに」など、そういうのだ。アメリカーノ・ゴイスーサッカことスティーブン・キングは、副詞をたいそう嫌っておられる。それこそ、氷の代わりにハルシオンを入れたウィスキーや、下水道に流れるセルロイドの人形や、黄ばんだ男性用小便器の横の(中略)くらい嫌っておられる。


 その嫌いっぷりたるや、一万語(英語では単語数でカウントするしきたりがある)あたり『~ly』になる副詞が百語くらいしかないという。変態である。だからキング御大が好きなのだが、それはともかくとして、興味がある方は『数字が明かす小説の秘密』を読んでみてほしい。日本語で書かれる小説の役に立つかまったく分からんが読み物として面白いぞよ。

 

 で、なんで役立つか分からんかと言うと、私は日本語の副詞が大好きだからです。

 

 むかーし暇なときにテキストマイニングの手法で数えたことがある。私の小説には結構な頻度で副詞がみられ、特に多いのが『すぐに』『そっと』『なぜ~のか』であった。だからという訳でもないではないこともなくないのだが、副詞の嫌われっぷりが分からないのだ。


 よく言われるのは、副詞をつかうと文章が曖昧になるという理由だ。

 つまり、『そっと』の『そっと』具合が分からんという理屈である。たとえば、生まれたばかりの赤子を抱くようにだとか、ステンレス鍋でポーチドエッグを作るときのようにとか、ベルトコンベアを流れてくる刺し身盛りにショクヨウギクを乗せるときのようにとか、そう表現せよというのだ。


 ……『そっと』でよくないですか?


 そう挙手したくなるが、副詞コロスベシモードにある創作者の集いでやろうものなら、そっと距離を置かれてしまう。いや、でも、よくない? 今どき赤子を放り投げる奴いるし、ポーチドエッグもレンチンでできるし、ショクヨウギクなんてそっと置いてたら刺身盛りが流れていっちゃいますよ?


 もちろん、もしかしたら、ちょっと例が悪い可能性もあるので、じっくり考慮しなくてはならない。だいたいにして、直喩などという結構あいまいな表現を使っちゃったのがてんでダメだ。テキトーに見てもすぐ分かるまったくブレないしっかりとした表現をふんだんに使ってやれば、だいぶよくなるにちがいない。そう、たとえば、


 彼女は細い指先を丸めて一秒あたり二センチの速度で大福餅に触れ、両手で包みこむと、五ヘルツの振動数で手を震わせながら持ち上げた。


 これなら間違いようがない。行為者の感情はまったく分からないが。あと、地味に気付いたけど副詞を使いまくった文章はたしかに読みにくい。あ、例文のさらに前の文章の話です。これは削れと言いたくなる。言いたくなるけど、


 え? 小説の初心者って副詞を使いこなしすぎてない? となる。


 いや、うん。なんかコケにしてるような文章になっちゃったけど、そんなつもりではなかった。どちらかといえば、削れと言われれば削るけど、なんか文章から溌剌さが消える気がしない? と言いたい。


 分からん。ちょっぴり違うかもしれん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る