二章 最速強化~遙かなる高みを目指して~

第43話 プロローグ

本日より2章開幕です。

どうぞ、宜しくお願いいたしますm(_ _)m



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 とあるDランク固定ダンジョンの横穴の中で、三人の冒険者が肩を振るわせていた。


 この場に来てから、もう二時間が経過しようとしている。

 彼らはここで休息を取っているのではない。

 動けなくなってしまったのだ。


「おい、なんでアイツずっとここから動かないんだ」

「俺らを狙ってんだろ!?」

「クソッ、なんでこうなったんだよ!」


 彼らの視線の先には、目が八つある巨大な蜘蛛がいた。

 このダンジョン――の中ボスだ。


 冒険者は三人ともDランクだ。

 このダンジョンで、通常モンスターを相手にするなら、安全マージンを確保出来るレベルである。


 だが、ボス級が相手だとそうはいかない。

 特に目の前にいる巨大蜘蛛は、まるで歯が立たなかった。


「もっと人数がいれば……いや、さすがに沢山いてもあれは無理だよなあ」

「遠距離アタッカーがいれば行けるか?」

「さすがに、少しいたからって倒せる相手じゃなさそうだぞ?」


 蜘蛛は八本足で、かつ八つの目を持っている。

 たとえパーティメンバーが八名いたとしても、相当呼吸を合わせなければ、蜘蛛の足のガードを超えられない。


 遠距離アタッカーがいれば、多少はダメージを与えられるだろう。

 しかし、一撃で倒せなければ相手を怒らせるだけだ。

 相手が巨体なので、突進されるだけでも厄介だ。


 怒らせて突進攻撃を連発された日には、パーティの陣形がぐちゃぐちゃになって敗北必至だ。


「逃げてる間に、少し攻撃してみたけど、全く通じなかったしな」

「あれ、どうやって倒すんだよ」

「俺たち、帰れんのかな……」


 Dランクの冒険者では、何人いようと太刀打ち出来るビジョンが浮かばない。

 Cランクの冒険者パーティでなければ討伐が不可能だ、というのが三人の共通した意見である。


 現在三人は、ダンジョンの壁にある隙間に身を潜めている。

 ダンジョンから出るには、この隙間から出なければならないが、外には蜘蛛がいる。

 手持ちの食糧は、高カロリーバーが三本と、水のみ。


 状況は絶望的だ。

 これが尽きるまでに、救援が来かどうか……。


「「「はあ……」」」


 考えると、ため息が漏れた。

 その時だった。


「一つ、尋ねていいですか」

「――ッ!?」


 突如、隣から知らない男の声が聞こえ、三人が一斉に肩を振るわせた。

 いまは、近くに中ボスの蜘蛛がいる状況だ。常に緊張状態にある。にも関わらず、男が声をかけてくるまで、三人の誰もが男の接近に気づけなかった。


「誰だ!?」

「驚かせて申し訳ありません。攻略に来た冒険者です」


 黒い外套を身に纏った男が、軽く頭を下げた。

 このダンジョンにいるということは、Dランク以上ではあるのだろう。

 しかし、顔に見覚えがない。


(Dランクであればある程度顔を知っていると思っていたんだが……)


 もしかしたら、Dランクではないのかもしれない。

 その顔立ちだけを見れば、決して屈強な冒険者とは思えない。

 だが男には、Dランクの冒険者の自分ですら、そう簡単には手が出せないと思わせるだけの威圧感があった。


「それで質問なんですけど、アレは攻略中ですか?」

「……アレ?」

「はい。あの大蜘蛛です」

「とと、とんでもない! 身を隠してるだけですよ」


 恥を忍んで、事実を打ち明ける。

 なるべくなら弱みを見せたくはなかったが、自分の命がかかった緊急時だ。なりふり構ってはいられなかった。


「そうですか。では、アレを狩ってもいいですか?」

「へ? え、ええ、狩れるなら是非。アレがいるせいで、こっちも身動きが取れなかったので」

「それはよかった。じゃあ、倒しますね」


 男がほっとしたような笑みを浮かべた。

 彼が確認したのは、討伐権だ。


 討伐権は最初に接触、または攻撃した冒険者パーティが持っている。

 討伐権はあくまで暗黙の了解、冒険者同士のマナーでしかないが、守っている冒険者は多い。


 というのも、守らなければ最悪互いが互いを潰し合って、結局誰も得をしないからだ。


(中ボスを狩りに来てる、ってことは、助かるのか!)


 冒険者三人は、無事帰還出来そうな気配を感じて歓喜する。

 しかし、すぐに気付く。

 現われた男以外に、冒険者の気配を感じない。


(パーティで倒すんじゃないのか?)


 疑問に思った、その時だった。


「エッ――!?」


 男の姿が、一瞬でかき消えた。

 まさかと思った。だが何度瞬きをしても同じ。男がいない。


 一体どうなっているんだ?

 そう思い、辺りを見回した時だった。


 ――ズゥゥン!!


 巨大な蜘蛛が、突如力を失い地に落ちた。

 その頭上に、件の男の姿があった。


「「「はいぃっ!?」」」


 それを見て、冒険者三人が目を剥いた。

 なんと男は蜘蛛の頭に、剣を突き刺しているではないか!


「いったいいつの間に!?」


 自分の目では、彼の動きをまるで捉えられなかった。

 とてつもない早業だ。


 ダンジョンが、地面に斃れた蜘蛛の回収を始めた。

 ずぶずぶと、その巨体が地面に埋もれていく。


「うそ……だろ……」


 いま目の前で起こった光景を、三人は受け入れられずにいた。

 こちらも一度は攻撃を試みた。

 だが蜘蛛には一切ダメージを与えられなかった。

 だから、きっとDランクの冒険者では太刀打ち出来ないんだろうと思っていた。


 その相手を、たった一撃で倒してしまうだなんて、一体誰が予想出来ただろう?


「すげぇ……」

「と、とんでもねぇ」

「……強すぎる」


 三人の口から、そんな言葉が自然と漏れた。

 蜘蛛の血に濡れた剣を血振るいして、柄に収めた。その男が空中を見て、微笑んだ。


(一体なにを見てんだ?)


 男の視線の先を見るが、何もなかった。


「中ボス、ありがとうございました。それじゃあ」


 男は感謝の言葉を口にしてから、再び目の前から姿を消した。

 まさに早業。

 一瞬の出来事だった。


「一体、なんだったんだあれは……」

「「…………さあ?」」


 男も蜘蛛も居なくなったダンジョンの中で、三人の冒険者はしばし呆然と立ち尽くしていたのだった。

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