第41話 スタンピード
その部屋には、おびただしい数のアリの卵。
そして、卵を産み落とした女王の姿があった。
女王は、他のアリと比べて数倍大きなサイズだ。
ソラが部屋に姿を現しても、敵意を見せるだけで動こうとはしない。
おそらく、産卵中だから動けないのだ。
ソラはインベントリから武器を取り出し、投擲。
光輝く棍棒が、女王の腹部を破裂させた。
「~~~~~~ッ!!」
女王が声なき悲鳴を上げた。
棍棒でここまでダメージを与えられたのは、【弱点看破】の光を狙ったからだ。
しかそそれでも、一撃で倒すまではいかなかった。
ソラは痛みに藻掻く女王に素早く接近。
頸を短剣で切り落としたのだった。
〉〉レベルアップしました
ダンジョンから出る頃には、もう日が傾き始めていた。
隠密を発動して、足早にダンジョンから離れていく。
「これからも、ソロが続けられそうだな」
今回のダンジョン攻略は、良い試金石になった。
これを糧にして、Dランクダンジョンを攻略していく。
Fランクだった自分が、いまやDランクのダンジョンをソロで回っている。
考えると、嬉しさがこみ上げる。
(ほんと、夢みたいだ)
ふわふわとした足取りで、ソラは家へと向かう。
その時だった。
ふと感覚が魔物の気配を捉えた。
一瞬、ダンジョンの中かと錯覚した。
だがいまは地上だ。
「スタンピードか!」
ソラは慌てて【気配察知】を展開。
するとすぐに、魔物の居場所がわかった。
魔物の前に、人間の気配を感じる。
既に冒険者が戦っているのだ。
(もう対処してるなら、首を突っ込む必要はないか?)
そうは思うが、冒険者には制約がある。
冒険者になると、移動の自由を奪われ、行動は常にGPSで監視される。また犯罪を起こした場合は、一般人よりも強力な罰則が与えられる。
そんな厳しい制約の一つに、スタンピード時の対応がある。
テンポラリーダンジョンがスタンピードした場合、冒険者は速やかに魔物を排除し、周囲の安全を取り戻す義務が発生する。
なのでソラは、無駄足かと思いつつも現場へと向かった。
現場では、八名の冒険者が巨大なカマキリの魔物を相手に善戦していた。
Dダンジョンのボスだ。
アタッカーが4人、シールダーが2人、バッファー、ヒーラーがそれぞれ一人という、バランスの良いパーティだった。
その布陣は、スタンピードに気付いて急に集まったとは思いがたい。
「ダンジョン攻略前にスタンピードでもしたのかな」
ごく希に、ダンジョンを攻略する前にタイミング悪く、スタンピードする事がある。
それが、この現場だ。
オークションで権利を落札するシステムは、どうしても攻略するまでに一定の時間がかかってしまう。
テンポラリーダンジョンは平均的に、一週間は安定して存在する。
だが中には、数日でスタンピードしてしまう不安定なものもある。
現在のシステムは、そのような『早期に不安定化するダンジョン』から、スタンピードを防げないのだ。
落札からスタンピードまで一日以内の場合は、冒険者協会が返金してもらえる。
一日以上の場合、権利落札のお金は戻らない。そうしなければ、わざとスタンピードさせて魔物を討伐し、返金も受けようという輩が現われかねないからだ。
それはさておき、戦闘は冒険者側が優位に進めていた。
しかし、ダンジョンから出て来た一般モンスターには手が回っていない。
「……手助けするか」
一般モンスターの位置は、おおよそ【気配察知】で確認出来ている。
他にも、近くにいた冒険者がモンスター討伐に乗り出している気配を感じた。
他の冒険者が間に合いそうなものは放置して、ソラはまだ手が回っていない魔物に向かった。
あふれ出した一般モンスターも、カマキリタイプだった。
アリとは違い、外殻はとても柔らかい。
しかし両手の鎌で行う攻撃は、アリより素早く、威力も高そうだ。
ソラは慎重に接近し、背後からバックアタック。
一撃でカマキリの命を奪い取った。
「よし、次だ」
そこから、ソラは二匹、三匹とカマキリを倒していく。
倒したカマキリの死体は、ダンジョンとは違い消えずに残る。
この死体も、魔石と同じように売却出来る。冒険者の貴重な収入源だ。
スタンピードしたダンジョンの攻略権は、ボスと戦っていたパーティが持っている。
死体の権利も、あのパーティのものだ。なのでソラは、死体をインベントリに収納せずに放置した。
五体目の魔物に接近した時だった。
ソラは魔物とは別に、小さな気配を察知した。
「……まさか!?」
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