第50話 スタオッド伯爵との面謁①
ボルダ村の防衛業務を終えてメゾリカの街に戻った
手始めに宿舎東棟一階にある封鎖されていた通用口を解放すると、コルレットが用意してくれた特殊な
そして宿舎の東側の荒れた硬い地面を地妖精ドニの力を借りて柔らかい土壌に変化させると、砂糖の原料となる
「マスター、水遣り行ってくるね」
宿舎の東に作った
これはホズミからの提案なのだが、シェイラの体内に過剰に溜まってしまう魔力を体の外に放出するのに畑の
特に断る理由も見付からなかった
その後も
「ツクっち、これ何すか?」
皆で昼ご飯を食べている時、コルレットがスティック状にカットされた野菜をコップから取り出して
「それか? コルレットが今持ってるのはセロリって言う野菜だな」
コルレットは成る程と言いたげな表情で数回頷くと、別容器に入ったソースをたっぷり付けて口に運ぶ。
この世界に自生するセロリも独特の苦みを持っていて、
「私は野菜が余り好きじゃないけど、この
黒狼族のミルルはそう言いながら、ニンジンのスティックに数種類のナッツを砕いて作ったドレッシングを大量に付けて口の中に放り込む。
「ほらっ、ネゾンも食べなさいよ」
ミルルは横に座る弟のネゾンの皿に野菜スティックを乗せる。
「ちょっ、ねーちゃん勝手に乗せるなよ」
ネゾンは年少組らしく野菜よりも肉派で、テーブルの中央に置かれたサラダ類には一切手を付けようとしない。
「そんな事言ってると、パパみたいに強くなれないんだからね」
ミルルはそう言いながら、ネゾンの皿にサラダを追加する。
「何言ってんだよ? 俺、父ちゃんが野菜食ってるところ一度も見たことねーぞ」
ネゾンはそう言い返すと、皿に盛られた野菜を全部コルレットのお皿に移すのだった。
「あっ、こらネゾン。お行儀が悪いわよ」
黒狼族の姉弟によるコントのような会話を交えながら、昼食の時間は過ぎていくのだった……
食事の後片付けが終わり、肉狩りに行くメルを送り出した
招集要請の内容を確認した
「おっ、来たか。呼び出して悪かったな」
「おは……んっんっウン、断れない方の招集要請でしたので」
「こちらとしても断らせる訳にはいかない案件だったからな、諦めてくれると助かる」
ゾッホはそう言いながら執務机の引き出しから二通の封書を取り出すと、
「
ゾッホが差し出した二通の封書にはそれぞれ別の
「スタオッド伯爵家とユダリルム辺境伯家ですか……」
嫌な予感がしているのか、封書に手を伸ばそうとしない
「気持ちは分からないでもないが、拒否権なんぞないからな」
スタオッド伯爵家とユダリルム辺境伯家からの手紙、開封しなくても内容は安易に予想可能ではあるが、開封しなければ終わらない。
それならば終わる方がマシであると思い至った
「両家とも地竜の件ですね」
「まあ、そうだろうな」
ゾッホは丸で他人事のように言って退ける。
「……って、予定日が明日の午後になってるんですが?」
スタオッド伯爵からの謁見日が明日になっている事に
「まあ、その、なんだ……最初はどちらが先にお前の
ゾッホはやれやれと言いたげな様子で裏事情を説明する。
「いやいや……それと
「関係なくはないだろう? スタオッド伯爵がユダリルム辺境伯家より先に
こう見えてもゾッホは貴族の世界に片足を突っ込んでいる人物なので、その辺に関しては驚くほどドライである。
「おお、忘れてた……
この世界で服を新調することは、ちょっとしたイベントを催すような物だ。
異世界ラズタンテでは魔法が便利過ぎていることもあり、産業機械なんて概念そのものが存在しない。
服を新調すると言うことは完全オーダーメイドで作ることを意味し、一日二日で出来上がるような物ではないのである。
「着てく服ないって言ったら断れます?」
「無理だな」
ゾッホは即答するのだった。
「でしょうね……まあ、何とかしてみます」
「くれぐれも失礼の無いように頼むぞ」
ゾッホが封書を預かっていたと言うことは、両領主の間を取り持ったのは恐らく冒険者ギルドだろう。
当然、所属している者が粗相をすれば冒険者ギルドも知らぬ顔はできないのである。
「何かあった時はゾッホさんの首でケジメ付けて下さいね」
「おいおい、俺には可愛い娘が二人もいるからな。何かあった時は遠慮なく逃げさせてもらうぜ」
メゾリカ支店の責任者と思えぬ発言に、
「おっと、もう一つ忘れてた。
要するにゾッホが言いたいのは、両領主の面子を潰さないように配慮しろってことである。
「その辺りは心得てるから大丈夫だと思う」
「そうだった。最後に一つだけ……この件と全く関係ない質問してもいいですか?」
ゾッホからの用件が済んだ後、帰り支度をした
「んっ? 俺に答えられることなら答えるぞ」
執務机に戻ろうとしたゾッホが振り返る。
「では、お言葉に甘えて……スタンビート発生の原因は特定できたのですか?」
ゾッホは本当に両領主からの封書とは全く関係のない
「いや全くだな……発生時を知るであろう開拓村の防衛に当たっていた傭兵団は壊滅していて証言もなし。今でもそれなりの冒険者がスタンビートの原因を探ってはいるけど分からず終いの状態だ」
ゾッホを始め、冒険者ギルドやユダリルム辺境伯が知っているかは分からないが、今回のスタンビートの裏に悪魔の関与があったのを
ゾッホ達が討伐したという、超大型の魔獣についても概ね悪魔絡みで間違いないと
「そうですが、うちで預かった獣人の子供達にも関係してるので、何か分かったら教えてください」
「ああ、それについては特に秘匿情報でもないからな。進展があったら随時情報開示は行う予定だ」
ゾッホは真剣な眼差しで
「ああ……そう言えば」
「以前、お前に橋の損壊で指名依頼出しただろう?」
ゾッホが言っているのは、
「その時現場で一悶着起こした……んー、あの貴族……んー、何だったっけ……」
ゾッホはガガモンズ家の名前が出てこない。
「ハゲモンズ家ですか?」
「そう、それだ、ハゲモンズ家がな、あの日以来行方不明になってるらしい」
確かに、あの日ガガモンズ家の馬車は獣人の親子を橋から突き落として東へ駆け抜けて行ったが、現時点で集まっている情報だけでは、ガガモンズ家とスタンビート発生に因果を見出すことはできない。
「神罰でも下ったんじゃないですか?」
この世界にはリアルに神が存在してるので、実際に神罰が下る事は有り得る。
「いや、それがな……スタンビートに巻き込まれた形跡もなく、遺体や馬車の残骸すら発見されてないみたいだ」
この世界では貴族の失踪なんて珍しくもない。
跡取り問題で身内を毒殺するようなことが普通に有り得るのだから、あの禿げ貴族が暗殺者のターゲットにされていたとしても何の不思議でもないのである。
「東の森で今分かってる事はそれ位だな」
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