Ⅲ-XVI
サフィールが腕を横に振ると、その軌道に現れた火の玉が、
火の玉はモノに当たる前に消滅したが、軌道を外れたいくつかが土傀儡に当たり、そこで爆発した。だが、巨大な土の塊はその程度では
「……進め!」
モノが命じると、土傀儡は何事もなかったかのように進み始めた。
「僕を無視して進もうっての?」
今度は前よりも大きめの火球が襲い掛かる。
「!」
先ほどと同じように火球は弾かれて消えたが、モノは少しよろめいて土傀儡にしっかりとしがみついた。
「はは、さすがにこのくらいの威力だとびくともしないってワケにはいかないみたいだね。さあエムロード、次はどうかな」
サフィールの嘲笑に、モノは真っ直ぐな視線を返す。
「さっきも言ったけれど、邪魔をしないで。私が用があるのは貴方じゃない」
「さっきも言ったけれど、僕はアンタなんか知らないよ。交渉の
白に近い光を放つ火球が、またしても土傀儡にぶつかって爆発した。表面の土が剥げ、ぼろぼろと下界へと落ちていく。
ほんのわずか、土の巨体が傾いたことが、その肩に乗るモノにはわかった。
――いけない。このままじゃ……。
彼女は無意識のうちに額の紋様を手で押さえた。
口振りからして、サフィールはエムロードとは旧知の間柄であるようだ。
彼がエムロードと同等かそれ以上の力の持ち主なのだとすれば、彼に退く気がない以上、手加減のできる相手ではない。戦わなければ、本当にやられてしまう。
その時は自分はどうなるのだろう、とモノは思う。
人間が死後どうなるのかなんて、本当のところは知らない。
でも、もしその魂が行く場所があるとして、そこに自分の大切な人達や出会った人達がいるとして、きっと自分は同じ場所に行くことはできないだろう。
今ここで負けるということは、そういうことだ。
その時は
きっとその前に、この国も、そこに住む
それは死ぬよりも嫌だった。
――戦う。戦う……。
モノは炎に彩られる王城と、闇に沈む街、さらには後方で燃える街を見た。
――戦いなんて望んではいないのに。
――私はただ、ずっと、ずっと。
――最初はそれだけだったのに。
目の前に真っ白な熱。
瞬間、エムロードの気配が膨らんで、モノの周囲から魔法の熱が消え去った。
モノ自身、障壁を築く魔法も使えるが、彼女の周り程度の範囲ならエムロードが
しかし、それは彼女の周囲だけであり、そこから外れた火球は容赦なく土傀儡の表面で破裂する。
膝を砕かれた土傀儡の上半身が大きく傾いた。
モノの体が土傀儡の肩から滑り落ちたが、その身はすぐ下に差し出された巨大な土の手に受け止められる。
「……間に合ったね」
「間に合ってねえよ。ぼーっとすんな。早くこのでくの坊を立て直せ。
エムロードの指摘どおり、サフィールの手にはすでに次の火球が集いつつあった。
「それにしてもサフィールの野郎、
土傀儡の手の上で体勢を立て直そうとしたモノは、エムロードの指摘に動きを止めた。
「エムロード、もしあの人がエムロードと同じなら、火の気配がずっと弱かった理由って……」
「俺とお前と、同じだって言いてえのかよ」
エムロードから獣が牙を鳴らすような嘲笑の波動がモノに伝わる。
「……ああ、笑っちまわあ。どこまで行っても俺達は
「でも、私のことは気付いてないと思う。私のことを知らないって言ってるから」
「気付かれたら面倒だ。もしあいつがすでに精霊石に手を出してるなら、いよいよ人間の戦に巻き込まれるってことだからな。来るぞ!」
サフィールの手元が
モノは自身の防衛はエムロードに任せ、土傀儡を操る方に集中しようとした。このままサフィールを振り切って進むのだ。それが被害を最も小さくする方法だ。
しかしその時、彼女のいる土傀儡の手の上から見下ろせる半壊した街並みの一角、狭い路地から二つの人影が飛び出してきたのが、彼女の視界の
高温の白い炎の塊は迫っている。
モノの周囲の魔力の炎をエムロードが喰らう。
軌道を外れた火の玉は土傀儡に当たり、さらに街へと、雨のように降り注ぐ。
土傀儡が突然向きを変え、大きく傾いた。モノの体は
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