第45話 バレンタインデー前日の様子
「はい。みなさんおはみかーん。おはりんごー。林檎みかんとー」
「おはつきひーおはたいようーおはライジングサンー夕暮月日でーす」
「本日は2人のコラボでーす」
「はいそこのリスナー『ブラウザバック』とか言うな。見てけー」
流れ作業で挨拶を済ませる林檎と、気だるそうな声で話し始める夕暮。
今日のコラボはこの2人のコラボだった。
「はいちなみにみなさん、先に謝っておきます。今回10分も配信が遅れたのはここにいる月日とかいう馬鹿が、『政木くんの配信が始まったの‼ ちょっと待ってて!』とかアホなことを言い出したからでーす」
「アホじゃありませーん。これは反射というやつなのです。仕方のないことなのです」
「政木さんが配信している時間を狙ってこっちも始めたのに、それじゃあ意味ないでしょう……」
友人のマイペースな行動に頭を抱える林檎。
ちなみに最初に夕暮が政木の配信を見ていると聞いた時は、林檎も思いっきり殴ろうとしたものだ。
なんせ今日は、触れる位置に夕暮がいるのだから。
「みなさん。この配信は私――林檎みかんの家から2人でお届けしております。ちなみに政木さんには絶対に言わないでくださいね」
「なんせ今日は……バレンタインチョコを作ろう企画だからな!!!」
そう。今回のコラボはいつものような定期的に行われるコラボではない。バレンタインデーを控えた、イベント性のあるコラボなのである。
リスナーも『お、マジか』『林檎さん料理できそう』『夕暮さん料理できなそう』『夕暮が女子っぽいことをしてる……?』などとリスナーも期待の声が上がる。
「ちなみに政木さんに内緒な理由を、月日の方から説明してください」
「…………政木くんに、サプライズで上げたいなぁ……って」
「聞いてくださいよ、この乙女発言。なのに直接渡さずに事務所から渡してもらうんですって。このビビりが」
「うるさいボケ。私だってやるときはやるんじゃ」
「それはその『やるとき』に言うセリフであって、言い訳をするときに言うセリフじゃないんですが……」
『その通り』『俺はお前にやるときが来たところを一度も見たことがない』『チョコづくり頑張ろうな』とリスナーも林檎に共感している。
だが夕暮は全く気にした様子はない。
「おら、とっととやるぞ」
「じゃあ始めますか。はいじゃあまずはチョコレートを刻みます。月日、そこの冷蔵庫に入ってるやつを取って」
「あいよー」
ちなみに実写配信とはならず、レシピの途中途中で出来上がったものを写真に撮って配信に上げていく方式である。
なのでリスナーは2人の会話を聞いてチョコづくりを想像するという高度な力が求められる。
「みかん……」
「ん、どうしました?」
「すごい量のお酒が、お前の冷蔵庫に入ってるんだが……」
「ああ、それは禁酒中に貯まったお酒たちです。知ってますか、お酒って飲まないと貯まっていくんですよ」
「どういう原理だよそれ」
林檎の禁酒期間はすでに終了している。禁酒期間が終わったその日に晩酌配信をしていた。豪快に一升瓶を空けている姿はツイッターで大きく話題になり、『#林檎酒解禁』は世界トレンド1位になった。
「それでは気を取り直して。このチョコを刻んでいきます」
「はいよー」
林檎と事前に打ち合わせた方法でチョコづくりをしていく。
最終的に作るものは生チョコレートだ。
「ちなみに月日は普段料理をするんでしたっけ?」
「全然せんなー。料理もいつもUb〇rだし」
「…………それで太らないのは恨めしい」
「はっはっは。お酒をたらふく飲んどるやつが何を言うとるかね」
相変わらず褒め合っているのか殴りあっているのか分からない2人の会話。
「あ、ちょっとお前、何してる!」
「知らないんですか? 料理っていうのはお酒を足した方が美味しくなるんですよ?」
「知らねえよ! ていうか入れすぎだろうが‼‼ あと政木くんお酒弱いから!」
「いいんですいいんです。ちょっとくらい大丈夫ですって」
「酒カスの『ちょっと』を信用できるわけねえだろうがぁ!」
なんだかんだ言いながらチョコを作っていく2人。
その後は生クリームとチョコレートを溶かして混ぜて冷やして、ココアパウダーをまぶして作ることができた。
「ほえー、なんとかできるもんなんだな。チョコレートって」
「おや? もしかして自分でチョコ作るの初めてなんです?」
「そりゃそうよ。作ろうとは思っても、なかなか重い腰が上がらんからな」
夕暮はにゃははと笑うが、林檎は意外そうな反応をした。
「じゃあ政木さんが初めての男……ってことですか?」
にやりと笑って、林檎が言う。夕暮もにやりと笑って答える。
「うむ。政木くんに初めて……奪われちゃった♡」
「はいこれは炎上ですわー。じゃあまた明日の朝に政木さんの事務所に届けておくので。では失礼しますおつみかーん」
「おつらいおーん」
こうして2人のチョコ作成配信は、政木にも見られないようにすぐに終わった。
なお、配信後に何故だか分からないが夕暮が炎上していたらしい。
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