第43話 20万人記念配信(ソロ)②

「さて続いてですが……あ、じゃあそうしましょう。次はあの有名Vtuberで、自分もよくコラボをさせてもらっている、林檎みかんさんから頂いたものを紹介します」


 大津とアイコンタクトで示し合わせて、林檎からもらったプレゼントをカメラの方に映す。


「これは……『The Prisoner』っていうらしいんですけど、アメリカのワインみたいです。林檎さんからはこのお酒と同時にメッセージもいただいたので、そちらの方を読ませていただきます」


 林檎は律儀にもメッセージ付きでプレゼントを贈っていた。


「えー『政木さん、20万人おめでとうございます。このワインは、お酒の苦手な政木さんでも飲みやすいと思うのでぜひ機会があれば一緒に飲みましょう。オンライン飲み会のお誘い、待ってます』ということでした」


 すごく簡素なメッセージ。

 これにはリスナーも『政木と仲良くしようとしてんじゃねえぞこの林檎が』『アンタ前科もちなのに、なに政木に取り入ろうとしてるんだよ』『つーかお前オンライン飲み会っていう口実こうじつを作って禁酒を破りたいだけだろ』『一生酒飲むな馬鹿タレ』と辛辣なコメントを送っていた。


「あはは、リスナーさんも落ち着いてください。そして林檎さん、ありがとうございます。また配信がない日に飲ませていただきます!」


 政木が嬉しそうに言うので、リスナーも黙るしかない。『配信がない日……いつ?』『林檎のオンライン飲み会の夢も砕けたか』とおとなしいコメントを残していた。


「でも、ほんと」


 政木は林檎のプレゼントを紹介し終えると、今までの配信を振り返ってしみじみと語りだす。


「嬉しいです。リスナーさんや知り合いの方にこうしてお祝いをしていただけるなんて。20万人って、Vtuberのトップの方々からしてみたらまだまだの数字だとは思うんですけど、僕にとってはすごく大きな数字なんです。20万人の方が自分なんかを気に入って配信を見てくれるなんて、去年の今頃だったら考えられなかったですから」


 政木の登録者数がこうして増えたきっかけは、夕暮や林檎とのコラボ。それが去年の6月のこと。

 それより前は、自分がこんなに多くの人に見てもらえるようになるとは思いもしなかったと、政木は語る。


「でもだからこそ、最初から見てくれていた人には感謝しきれないというか……。その人たちがいなかったら、こうして注目をもらう前に辞めていたでしょうし」


 配信をしたら、いつも必ず100人くらいは見てくれていた。

 その100人が、政木にとってどれだけ大事だったかは言うまでもない。


「本当にみなさんありがとうございます。こうしてみなさんが配信を見に来てくださっているおかげで、僕はこの先もこの仕事を頑張ろうって思えます。改めて、感謝させてください」


 最後は涙を含んだ声で、政木はそうリスナーに言った。

 リスナーもその感謝に対し『政木応援してるぞおぉぉぉぉぉおおおお‼』『いつまでも永遠に、政木フォーエバー』『100万人までいけ!』『新規だけどめっちゃ応援してる!』『アーカイブまで全部追ってるぞ!』とエールで答えた。


「みなさん……ありがとうございますっ…………! これからも頑張ります、はい! じゃあ次のプレゼント。そうですね、夕暮さんから頂いたものにしましょう!」


 気を取り直してプレゼント開封に戻る。

 今度は夕暮のプレゼントだ。


「はい、じゃあマネージャーさんお願いします。夕暮さんからもらったプレゼントはこちらです!」


 大津が紙袋から取り出したのは…………大きな大きな人生ゲームだった。


「…………人生ゲーム……ですか? 昔に遊んだようなやつ、ですね……。め、メッセージの方を読んでいきましょう!」


 夕暮の意図が分からないので、おとなしくメッセージを読む政木。


「えーっと、『政木くん、この人生ゲームをやりながら私――夕暮月日との人生について考えてみてくれ! ちなみに私も落ち込んだ時はこのゲームで政木くんとの新婚生活を思い浮かべてる!』……とのことでした」


 配信が凍り付いた。みんな「何言ってんだこいつ」という状態に陥ってしまったからだ。

『雰囲気台無しで草』『林檎の方がまともだったじゃねえか!』『というか落ち込んだ時にやってることがなかなかにサイコパス』『政木……お前この化け物の世話もしなきゃいけないのか……』とリスナーもあまりの内容に絶句している。


「えーと、あれですね? オフコラボの時に一緒にやろう、っていう……。多分そういうことですよね! はい、夕暮さんありがとうございます! ……ただそのオフコラボも実現する目処めどは全然立っていないですが……」


 無理やりにフォローする政木。だがタイミングが悪い。

 その少し前に夕暮が『供養くようしてくれ、頼む。オラの一生のお願いだ』というコメントをしていた。


『死体蹴りで草』『夕暮にもさすがに同情する』『ネタで贈ったのに真面目にフォローされるの辛いだろうなぁ』『というかあの感動の話の後にこれは、マジで夕暮持ってるよな』とリスナーからも手厚い慰めを受ける夕暮。


「あ、え、夕暮さんいる⁉ あ、えっと、ありがとうございます! プレゼント、大事にさせていただきますから!」


 政木の追撃に、『いっそ殺せ……』という夕暮のコメントが妙に味わい深く残る。

 そんな20万人記念となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る