第46話 工房と市場へ1
「……何してんの?」
「いや、成り行き上、どうしてもこうなったというか」
イリスとアンジェの二人にくっつかれている俺は随分滑稽に見えるだろう。苦笑いするしかなかった。
「ほらほら、ニル兄会えなくて寂しかったとかそういうセリフは出てこないんっすか?」
「そういうのは自分からねだるもんでもないだろ……」
俺に何を言わせたいかのクイズは諦めたらしい。俺は改めてアンジェを背中からひっぺがして、ベッドに落とす。モニカの方は、イリスと鉢合わせたのが恥ずかしかったのか、さっと手を放してくれた。
「しかし悪いな、イリスも飯目当てだろ? 昨日は帰ってすぐ寝ちまったから食材もないんだ」
四人そろって階段を降りる。家事妖精のおかげで長期間家を空けていても、埃一つ落ちていなかった。
「えっ!? あ、そ、そうね! 残念!」
少し違和感のある、慌てたような返答に首をかしげつつ、どうしようかと考える。魔法用の触媒は必要だが、三人も腹をすかせたままなのは少々気が引ける。
「そうだな……じゃあ工房で触媒の相談をするついでに、食材を市場で仕入れてくるから、ちょっと待っててくれるか?」
「了解っすー。こないだみたいな変なスープは勘弁してほしいっす!」
「わかった……私の杖で出た端材は預けてあるから使って」
二人はそう答えると、椅子に座って俺を見送る姿勢になった。
「イリス?」
家を出たところでイリスがついてきていることに気付く。
「えっと……」
「どうした? 荷物持ちでも手伝ってくれるか?」
何か言いたそうだったので、助け舟を出してやる。多分腹が減っていて、じっとしていられないんだろう。
「あ、うん、そうそう、それ」
イリスの申し出をありがたく受け取って、俺はまず最初に工房を目指す。
破壊された魔力収束炉は、とりあえずカートリッジ内にある素材は無事だ。問題は呪象の牙を使ったフレームで、それが見事なまでにバキバキに砕けている。金等級の魔物素材だけあって、強度はかなりあったはずなのだが、流石に遺物の咬合力には敵わなかったようだ。
絶縁材は砕けてしまうと、当然ながら性能はかなり落ちる。
水流をせき止める板が二つに割れ、元の形にくっつけたところで、以前のような役割が果たせないように、魔力をせき止める絶縁材に、亀裂や破損、欠けは厳禁だ。急造杖の石灰も同じ理由で、砕けてしまえば作り直すしかない。モニカの残した端材で、何とか使えそうなものがあればいいが……
「ねえ……」
「どうした?」
この残骸でどうやって修復しようか考えていると、イリスが口を開いた。
だが、それ以上語る素振りは無い。不思議に思ってしばらく彼女を見つめていたが、イリスは諦めたようにため息をつくと、また一言だけ喋った。
「何でもない」
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