第37話 ベヒモス3

 ニールの手から放たれた雷撃は、ジンの身体を焼くかに思われた。


 しかし、俺は見逃さなかった。あいつが身体を捩って直撃を避けたことを。


「加速っ!!」


 それを確認すると同時に、俺の体感時間が急速に引き延ばされていくのを感じる。

 目くらましの雷撃、それに隠れる形で討伐をしろという事らしい。俺は脚に力を入れ、一足でジンを間合いに捕らえ、首を落とす。


 ――いや、ちがうな。


 着地をしつつ、俺の中の本能がそう言っていた。何かは分からないが、違う。こいつの首だろうが、頭だろうが、断ち切るのは正解じゃない。


 どうせニールの事だ。支援のレベルは上昇していない、となればあと一歩、どう動くか……ニールは祭壇を背にしたジンへ雷撃を放ち、こいつはそれを躱した。という事であれば――


 そこで俺は祭壇の方を見て、雷撃が爆ぜるのと「左手」(ワキイカヅチ)の封印が消滅するのを見た。


――これだ。


 俺は最後の一歩を、祭壇への跳躍で使う。急速に縮んでいく体感時間にめまいを覚えながら、俺は遺物を手に持って左手に押し付ける。


「っ……」


 神経を直接撫でられるような痛みと痺れに、奥歯を噛みしめて耐える。


 徐々に神経がつながり、長らく失っていた左手の感触が蘇ってきた。万能感にも似た高揚が心を満たし、俺はジンのいる方を振り返る。


「ちっ、本当に気味がわりぃな、お前」


 視線の先では、首から下が無くなった罪源職が、自分の肉体を食べることにより、再び身体を生やしている姿が見える。切断は無意味って、こういう事か。


「っ、ふう、そう言うな、俺もお前も、遺物で欠損を補ってるだけだろうが」


 食べ終わったそいつは「食べ残し」から外套を剥ぎ取り、それを羽織る。


「……」


 なるほどな、こいつがむやみやたらに捕食をしないのはそう言う事か。食べ残しがあることを見て、俺は見当を付ける。


 つまり、どの程度かは分からないが、捕食にキャパシティがあるわけだ。欠損部位の再生や傷の治癒で栄養は消費するが、捕食によって食い切れない量は噛みつくことすらできない。というわけだ。


「そっちは頼むぞ!」


 遠くでニールを守るように立っているサーシャに大声で指示を飛ばす。細かい事は別にどうでもいい。邪魔をしなけりゃ何とでもなる。


 そもそもだ、罪源職相手に手負いのニールと年食っただけのエルフが役立つとも思えねえ、こういうのは、俺の仕事だ。


「じゃあ、お互い全快って事で、第二ラウンド行くか!」


 そう宣言して、俺は地面を強く蹴りつけた。

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