第36話 ベヒモス2

 ジンめがけてとびだしたスライムは、彼の身体を掠めて壁を穿つ。


「遅えよ遅え! 烙印持ち罪源職の癖してトロすぎんぞっ!」


 彼は地面を蹴って一気に距離を詰めて拳を振り上げる。しかしその拳はカインを捕らえることはできなかった。


「お前こそ相手を下に見てんじゃねえ……よっ!!」

「っ!!?」


 拳を片手剣の峰でいなしたカインは、その反動を利用して回し蹴りを相手に与える。脇腹を狙った蹴りだったが、それは逆の腕でガードされる。


 しかしガードされたとはいえ、罪源職の筋力とカウンターの勢いが乗った蹴撃に、ジンの身体は吹き飛ばされる。


「サーシャ!!」

「っ!」


 カインの呼びかけに返事をする代わりに、サーシャは矢を番えてジンへ連射する。


「ちっ……雑魚が粋がるんじゃねえっ!!」


 両手で急所を覆った姿勢で罪源職は襲い来る。眼球めがけて放たれた矢を躱し、暴力的な拳がサーシャに迫る。カインは体勢的に援護へ向かえない。


「っ、加速!」


 魔力収束炉が無くとも、痛みで視界が歪もうとも、片腕が欠損しようとも、俺は魔法を使うくらいはできる。痛みでほつれそうになる集中を何とか維持し、カインを加速させる。


「ぐうぅっ!!」


 魔法が発動した瞬間、ジンは再び俺達から離れた場所で膝をついた。体中に矢が刺さっていたが、未だに健在のようで、敵意のある瞳をこちらへ向けている。


「……ちっ、大人しく死ねよ」


 祭壇を背に、ジンは腕に刺さった矢を引き抜く。その傷口はすぐに塞がり、血の跡のみを残していた。


「……」


 恐らく、このまま戦っていても、拮抗するのが限界だ。加えて、相手が遺物を発動させれば、その状態もたやすく崩れてしまう。


 そこまで考えて、疑問が浮かぶ。遺物を使わないのは何故だ? あの捕食攻撃は、こちらの戦力をゆうに上回る威力を持っているはずだ。使わない理由がある……?


 俺が持つ遺物は使用にクールタイムがあるが、最初の遭遇時はもっと短い間隔で捕食を行っていたように思う。


 だとすれば、何か他に要因が……?


 いま、この状態で戦い続けたところで、じりじりと敗北するのは目に見えている。なら、賭けるとすれば相手が遺物を使えない事と、左目の遺物と、リクからもらった札だ。これらを使って、早期決着をつける。


「カイン、お前に使う」

「おう」


 やり取りはぞれだけで十分だった。俺は懐からリクに貰った札を取り出して魔力を込める。


「雷符・武御雷」


 手のうちから、飽和した魔力が形を成し、目を灼く閃光と共に極大の雷撃が放たれた。

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