第19話 面影
「ふっ――!」
鋭く息を吐き、シズの斬撃と罪源職の拳が交錯する。倭刀の切れ味を素手で受けているため、血飛沫が舞って周囲を赤く染めるが、罪源職の体は見る間に修復されていく。
回復魔法とは違う。単純に肉体の損傷が治癒しているのだ。おそらく、それこそが遺物の恩恵なのだろう。
「ははっ、案外やるじゃないか、俺が遺物を手にいれた頃はただの子供だったのに、よくやる」
「……」
二人は距離を置き、対峙する。お互いに必殺の一撃を伺っているようで、俺には割り込む余地が無いように見えた。
「十五年もあれば、変わるには十分だ」
シズは静かにそう言うと、黄金の倭刀を握りなおす。その瞬間。罪源職のマスクが不気味に動いた気がした。
「加速っ」
ほとんど勘のような意識で、俺は自分に支援魔法を使う。
「――」
休息に速度を失う視界に映るのは、膨れ上がり、魔物の顎門のようになったマスクが、地面ごとシズを食いちぎろうとしているところだった。
俺は一歩で馬車から罪源職へ距離を詰め、さらに一歩踏み込んで罪源職の胴部に抱き着いてタックルをする。
横目にシズの方を見ると、飛び退いて躱そうとしているのが見えた。
俺はそのまま足を踏みしめ、加速によって緩慢になった時間の中で、無理矢理マスクを剥ぎ取って無力化させる。
マスクを剥ぎ取ると、膨れ上がっていたマスクは急速に形を失い、元の大きさへ戻っていく。
シズの無事を確認するよりも、まずは罪源職をどうにかしなければ、そう思って、俺は視線を相手に戻す。
マスクの下は、思いのほか老けた顔が覗いていた。その表情は驚きと憎悪の混じった表情で、俺に何らかの記憶を想起させた。
――かくれんぼをしましょう。さいしょは、おかあさんがおに。
「っ!?」
一瞬で集中が乱れ、加速が解除される。なぜだか分からないが、俺の中でそんな言葉が響いたのだ。
「テメエ何しやがる!」
「ぐぁっ!!」
完全に集中を乱した俺に、罪源職は拳を振り回し、マスクを取りかえされるとともに殴り飛ばされてしまう。
「なんだ、お前の方から先に死にたいのか? だったら――」
罪源職が言葉を言い終わらないうちに、空から雷属性の魔法が降り注いだ。
雷は男を直撃し、周囲に轟音を響かせる。この規模では、常人なら即死してもおかしくない火力だ。
「……――、――ぁ、――」
酷い耳鳴りの中、罪源職の体がみるみる再生していく、再生を終えると彼は一言二言話して、その場から逃げるように去っていった。
あとに残されたのは俺とシズ、そして壊れた馬車に乗ったままのサーシャだけだった。
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