第16話 「何を聞きたいか」ではなく「何故聞きたいか」
その後二軒ほど回ると、シズという冒険者についてすこしずつ輪郭がはっきりしてきた。
まず、倭刀という特殊な剣を使う剣士だということ、木材はもちろん、岩や金属ですら切断する腕前とのことだった。
金属でできた剣で金属を切るなんて芸当ができるのか、と思うが、不可能ではない。倭刀は通常の鍛え方ではないのだ。
炭と玉鋼で作り上げた刀身を急冷することにより、普通の剣は強度を上げる。しかし倭刀はそれに加えて魔力を込める。
込められた魔力は刀身に固着し、波紋様の酸化被膜を作り上げる。それに加えて熟練の職人による研磨加工により、細剣よりも薄く軽い、高い切れ味を持った剣が作られる。
ちなみにこの倭刀、なぜ少数民族同盟以外で使われないかというと、メンテナンス費用が馬鹿にならないのだ。
俺が持っているナイフや、サーシャの矢じりは使い捨てか砥石で軽くこする簡単な手入れで使えるが、専門の研磨師や刀鍛冶による打ち直しがメンテナンスには必須だ。勿論彼らはエルキ共和国やイクス王国にも居ないわけではないが、依頼料は凄まじい。つまるところ、倭刀を使えるのはこの地域で活動する人間か、相当な金持ち以外に不可能というわけだ。
次に、妹の仇を探しているという情報。
その相手は罪源職で、貪食者とのことだった。特徴は――
「牙をあしらった奇妙なマスクをつけている……つまり、俺たちが情報収集していたのは、DSF構成員で、なおかつシズの仇……?」
「そういう事になるわね」
次の一軒に向かう途中、俺とサーシャは情報を整理していた。
牙のマスクをしている罪源職なんて、そうたくさんいるはずも無いだろう。だから、同一人物とみて間違いは無いはずだ。
「どういう事だ? 情報を探している理由は分かったけど、なんで俺たちにこんな簡単な事を聞いた?」
「それは分からないけど……情報以外の物を欲しがっているのかも」
サーシャは考え込むようにしてそう話す。確かに、現状何を知りたいか、よりもなぜ知りたいか、の方が興味を引かれている。
「……なんにしても、次からは二つの情報を一緒に聞いても大丈夫だろう。そろそろ店も閉まるだろうし、効率よく行こう」
だが、ここで唸っても仕方ない。ならば、情報を集めることに注力することにしよう。
「そうね、現状それしかできない。考えるのは情報をシズさんに伝えてからにしましょう」
サーシャが頷き、俺たちは酒場の扉を開く。夜も遅い時間なので喧騒はまばらになっていたが、誰もいないわけではない。
時間的にこれが最後だな。俺はそう思った。
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