第15話 調査中の違和感
「牙のマスク? っていうと……アレか? 志藤家の方でごたごたがあっただろ、なあ?」
「ん……ああ、なんかご神体を狙う奴がどうのこうのって」
「詳しく聞かせてもらえるか?」
正直なところ、こんなに早く情報が拾えるとは思っていなかった。
この集落にはいくつか飲食店や酒場がある。その内の一つで俺たちは聞き込みをしていた。
牙のような装飾が付いたマスクをした男――ただこれだけの情報なので、難航するかと思われたがそれは杞憂に終わってしまった。
情報を知っている男の話としては、このようになる。
志藤という領主が納める土地に、数か月前から姿を現しているらしい。そこには「ご神体」というものがあり、男はそれを狙っている。との話だった。
情報料として酒の代金を一杯分奢り、俺とサーシャは店の外に出た。
「……妙ね」
雲一つないが、街の灯りで夜空の星は随分見づらくなっている。その空を見上げながら、サーシャは呟いた。
「サーシャもそう思うか」
俺もその言葉に同調する。白金等級の冒険者が、この程度の情報を得られないとは思えなかった。情報収集をそもそもする気が無いのか、それともこの作業をさせたことに意味があるのか……
「まあなんにせよ、成果はあった。シズに情報を渡そう」
そう言ってサーシャを見るが、彼女は険しい顔をしたままだった。
「本当にそれでいいのかしら」
「どういう事だ?」
俺は言葉の意図が分からず、サーシャに問いかける。
彼女は俺よりもはるかに長い時間を生きている。だからこそ、彼女の勘には従たほうがいい事が多々あった。
「私達が簡単に情報を得られたのは、三つの可能性があるわ。一つは、シズさんが元々私達を引き離すためだけにこれを頼んだ場合。次に、シズさんはこれ以上の情報を求めている場合。最後は――この情報をシズさんに渡すべきじゃないって、みんなが思っている場合」
言われて、俺も考えてみる。
まず、最初の可能性は無いだろう。引き離すつもりなら、こんな分かりやすくて追いつかれそうな情報収集を依頼する筈が無い。
あるとすれば、これだけでは足りない場合と、シズにこの情報を渡すのが得策ではない場合……
「……もう何軒か回るか」
「そうね、それがいいと思う」
聞くとしたら、牙マスクの男よりも、シズのことを聞いて回るべきだろう。この近隣を拠点とする白金等級の冒険者ならみんな知っているだろうし、その中で牙マスクとの関係も分かるかもしれない。
「少しは頭が回るようになったじゃない」
「まだまださ、サーシャにフォローされないとまた迂闊に動くところだった」
俺は拳をぶつけ合って、酒場を回る事にした。
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