第47話 混血を取り巻く環境
「楽しそうじゃない」
爺さんの対応に困っていると、イリスが輪に加わった。
「おっすイリちゃん!」
「聖女様、どうかされまし――うひゃっ!?」
クレインが畏まった言葉でこたえるのを、横に居た修道女が脇腹をつついてたしなめた。
「お疲れ様、今日も来てくれて嬉しいわ」
「最初はお高くとまってる小娘だと思ってたが、なかなか殊勝な娘じゃのう」
爺さんたちは、年下の親戚に話すような口調でイリスを受け入れる。彼女自身の希望もあったが、何かとイリスは末っ子気質なところがあった。
「話を聞きに来た、って感じか?」
「ええ、特にみんな、旅の始まりの方からずっとアンジェさんと仲が良かったみたいだし」
どうやら混血に対する教会のスタンスには、イリスにとっても思う所があるらしい。
「ワシにはよくわからんな、そもそも教会がいきなり決めた事じゃし」
「私が生まれた時にはもう『そういう物』になってたけど、巡礼をしてるうちにそんな区別どうでもいいってなっちゃった――あ、これ偉い人には秘密よ?」
混血に対する忌避感は、教会が迫害政策に乗り出す前からも少しはあった。
ただ、爺さんのように特に抵抗を持たない人もいるし、特に冒険者など、経歴に傷があったり後ろめたい事のある人間や、日に何人も回復魔法を使う必要がある巡礼者にとってはは個性の一つだった。
「まあ、現場の人間としてはこれだな、イリスも実際同じような意見だろ?」
「ええ、まあ……」
しかし、街の中で生涯を終えるような人々、貴族や雇われの兵士、農民その他一部の大商人などは、そうもいかない。そもそも混血の絶対数がそこまで多くなく、彼らの出自の関係上、ある程度社会的地位のある人間の生活圏にはあまり接点がない。
そうなってくると、混血の人間はよくわからない。よくわからないものは怖い。怖いものは排除するべきだ。というふんわりとした忌避感が出てくる。だが、それを表立って主張する人間はそう多くなかった。教会がこの問題に介入するまでは。
「ここでもそうだけど、本当にアンジェさんたちには生きづらい環境になってると思う」
三〇年前、新教皇として即位したクリフォード三世は、教会が持つネットワークを通じて、混血への排斥運動を突然始めた。
もちろん混血を多数抱える傭兵・冒険者の両ギルドは抗議し、その軋轢は現在まで続いている。
「本当はわたしも、こんな状況はおかしいと思うけど……」
「イリス嬢ちゃんはえらいのう、ワシなんか自分の事で精一杯じゃ」
「私もね、正直、死にそうな人見て『角はある? 耳は普通? 尻尾は?』なんて確認してられないし、混血が嫌いだろうと、頼らなきゃやってられない時の方が多いもの」
俯くイリスに、二人は言葉を掛ける。
「ぶっちゃけ、教会をどうにかするなんて一人が頑張っても意味ない気がするんじゃが」
「ちょっとそれイリスちゃんに失礼じゃない? ……気にしちゃダメよ、あんなジジイの話なんか」
「……はい」
イリスは返事をしたが、どうにもはっきりと答えは見つけられないようだった。
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