第28話 水源の村へ
魔物と罪源職の襲撃があった日から三日が過ぎ、周囲の景色は緑一色から枯れ草の色が見えはじめ、岩肌が所々に露出するようになってきた。
白みはじめた空を見て、今日も暑くなりそうだと頭を掻く。ここらでそろそろどこかの集落に寄っておきたいな。
ちょうど今は雨が少ない時期というのもあり、馬を含めてこの隊列の疲弊はたまってきている。
「地図が確かなら、この先に水源と、村があるようだが、寄らないか?」
俺は物音を立てないようにイリスのいる馬車へと入り込み、静かに口を開いた。
「どうして? まだ水も食料もあるじゃない」
イリスと合うのは細心の注意が必要だ。なるべく人がいない時間帯を選ぶとなると、深夜から明け方の数時間しかタイミングがない。
「その両方があっても旅っていうのは体力を消耗するもんだ。一週間近く補給なしで歩いていたら、馬だって体力が持たない」
出来れば二泊三日、ストレスを取り除くにはそのくらいの休息は必要だろう。
「加えて、今は酒を飲むことも禁止しているだろう。護衛の兵士たちの指揮にもかかわるぞ」
「でも、あんな非常識な酒盛りを見せられたら、わたしは許せない」
「ありゃあ危機感というか、旅がどんなものか知らなかったんだろ、今まで混血を差別し続けた奴らが、急に考えを変える訳がないしな」
機嫌の悪いイリスを宥めつつ、俺は補給の大事さを説いていく。確かに不安は残るものの、この辺りでガスを抜かなければ、致命的な場面で不満が爆発しかねない。
「……わかったわ、でも立ち寄る村での補給は、絶対にお金を払わせるわよ。教会の権威を笠に、寄贈とかそういうのは求めない事」
「ま、妥当だな――じゃあご機嫌伺いが来たらそう伝えてやれ」
俺は来た時と同じように、注意深く馬車から降りると、アンジェのいる場所へと戻った。
「起きろ、朝だぞ」
「んぅー……」
イリスがきつく言って、再び隊列で寝ることができるようになった彼女だが、着実に味方を増やしつつあった。
モーガンの部下であるクレインをはじめとして、聖職者はまだ少ないものの、護衛でやとわれた騎士や傭兵の間では、徐々にアンジェを忌避する動きは弱まっていた。
「昨日……」
「ん?」
「剣士の爺ちゃんとタクティードやってて知恵熱っす……」
すこぶる体調の悪そうなアンジェを見て、俺はため息が出る。ボードゲーム遊んでんじゃねえよ。
こんな感じで、相手が忌避感持っていようと、問答無用で仲良くなれるのはこいつの長所なんだが、緊張感が無くなってしまうデメリットもあった。
「お嬢ちゃんがワシに勝とうなんて一〇〇年早いわガハハ、だって……いつか勝ってやるっす……」
ちなみにタクティードとは、騎士や弓手などのコマを使って戦いのシミュレーションをする遊びだ。昔はそのまま戦術の勉強にも使われていたらしいが、今は完全に遊戯用としてしか存在しない。
「そんなお前に朗報だ。そろそろ水源の村につくから、そこで補給ができるぞ」
「おお、それは良いっすなー……」
アンジェは微妙に締まらない声を上げる。ダメだ、早いとこ村で休ませよう。
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