第4話 ニールから見たアンジェ
――首都ルクサスブルグ
古い言葉で「豪華な都」を意味するこの都市は、名前に負けないほどの賑わいと、華美な装飾に彩られている。
春先に訪れた時は観光をする余裕もなかったが、今回は日程に少しの余裕があったので、宿をとって観光をする余裕があった。
「むうむう、むっむむむうむも」
「たべてから話せ、逃げないから」
広場の屋台で買った焼き菓子を口いっぱいに頬張りながらしゃべるアンジェに、俺は呆れつつも返事を返す。
「んくっ……ぷはぁ、宝石飴ってどこに売ってるんすかねえ……」
「銘菓だって言ってるし、ちょっと探せばすぐにあるだろ。それより、食い過ぎじゃないか?」
ルクサスブルグに着いて、ハヴェル神父と別れた俺たちは、街の中心部にある噴水の広場を歩いていた。
暑い日々が続いているのもあり、噴水に足を浸して遊ぶ子供もいた。その姿をちょっとうらやましく思いながら。俺は周囲を見渡す。
「お、あれじゃないか?」
噴水の側、いくつかの大瓶に色とりどりの飴を詰めた屋台があった。
「よし、買いに行くか……ってアンジェ?」
気付くとアンジェがいなかった。ガキじゃないんだから……とは思ったが、実際あいつの精神年齢はガキなので、仕方ないと思いなおした。
「宝石飴を二つ頼む」
二つの紙袋にざらざらと詰め込まれていく宝石型の飴を眺めつつ、俺はアンジェが行きそうな場所を考える。
腹はそれなりに膨れているだろうし、目当ての宝石飴屋には来ていない。ということは……
「ぎゃああーーー!! つめたーーーい!!!」
うん、あいつが誘拐とかされるようなタマじゃないのは知ってたさ。
「アンジェ! 宝石飴あったぞ!」
服を着たまま噴水に突っ込んだ彼女に、声を掛ける。ああ、乾かすのも楽じゃないんだぞ。
「おお、ニル兄ナイス! すぐ行くっす!」
びしょびしょの身体で噴水から出ると、アンジェは満面の笑みでこちらに向かってくる。子供とか居たらこんな気分なんだろうなーとかどうでもいい事を考えた。
「ん!」
「ん! ……じゃなくてな、お前そんな濡れてたら紙袋も破けるし、飴もくっついてよくわかんない事になるぞ」
さすがに盾と鎧は部屋においてあるから、手入れが大変なんて事は無いのだが、濡れて身体に張り付いた服を見ていると、どうにも落ち着かない。
「ほら、タオル貸してやるから頭拭け、風邪ひくぞ」
「ニル兄やってー」
「お前なぁ……」
仕方なく頭を拭いて、ついでに服も絞ってやる。
こういう状態で屋台の前をウロウロして、濡れたら困る商品を触ったりしたらと思うと、それだけで落ち着かなかった。
「はい、これでよし、この気温ならあとはほっといても乾くだろ」
「ありがとニル兄!」
全く、この見た目で俺とそんなに年が変わらないんだから呆れる。
「……」
「ん、なんだ?」
タオルをしまって、そろそろ宿に戻って明日の支度をしようかと思っていると、アンジェが唐突に手を握ってきた。変に神妙な面持ちだが、トイレか何かだろうか?
「年頃の異性、濡れた肢体……」
「?」
出てくる言葉が予想外で、思考が停止する。
「ドキッとしたっすか?」
「するかっ」
空いているほうの手で軽くチョップすると、俺はそのまま宿に帰ることにした。
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