第62話 ショウダウン1

 その日は近くの村まで徒歩で移動するわけにもいかず、この村で一晩を過ごすことになった。


 鼻が曲がりそうな臭いには閉口したが、夜通し歩いたり、わざわざ野営地を探し回るよりも、被害の少ない物置や倉庫で一晩明かした方が安全だ。


「……」


 そして俺は確かめたいことが一つあった。


 全員が寝静まった後、俺は遺物の隠されていた教会を訪れる。


 崩れた十字架や割れたステンドグラスが月光に照らされて、幻想的ながらも荒涼とした雰囲気を纏っている。その中で、俺は遺物の隠し場所である窪みを観察する。


 そこにはどう見ても何も残っておらず、仕掛けは完全に解除されていた。やはり、おかしい。


 これだけ荒らされ、壊されているにもかかわらず。仕掛けは解除されているのだ。ここだけ急に魔物の知能が上がるわけでも無し、何者かの意思が介在している気がしてならなかった。


 魔物に利する行動を、普通の人間がする筈が無い。ならば、この辺りを根城にする罪源職の何者かが――


「っ!!」


 不意に、背後に気配を感じて身体を捩る。先程まで頭のあった場所に、粘性のある何かが伸びて、すぐに戻っていく。


「勘のいい奴だな……って、あ?」

「……カイン?」


 戻っていった先に視線を向けると、カインが左腕にスライムを乗せていた。


 あの時、モニカの広範囲魔法に巻き込んで、殺したと思っていた。だが、どうやら何かしらの方法であの場を逃げ出し、ここまで逃げていたようだ。


「半年振りか?」

「いや、そこまで長くねえ……ってかそんな悠長に話す関係でもないだろ」


 カインはそう言って、右手に持った片手剣をこちらへ向ける。所々に刃こぼれが見え、赤黒い汚れが付着したそれは、彼の生活が悲惨だったことを物語っている。


 遺物を取り出したのがカインだというのなら、納得できた。右腕の烙印を見るだけでも、彼がさらなる深淵へ足を踏み入れていることは想像に難くない。


「そうだな、お前は罪源職で、更生の意志もない」


 俺は一つ息を吐き、左手の魔力収束器をカインに向ける。


「……懐かしいな」


 不意に、カインはそう口にした。


「ああ」


 短く答える。これほどまで決定的に関係が壊れていたことはそうなかったが、二人で冒険している間、幾度となくやった行為だった。


「サーシャ達は呼ぶか?」

「いや、見届け人は要らないだろう」


 皮肉の籠った問いかけに俺は抑揚を押し殺した声で答える。


「ハッ、そういう奴だよ、お前は」


 カインは一瞬だけ笑い。すぐに真顔に戻ると、短く宣言する。


「勝負は一瞬――決闘(ショウダウン)だ」

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