第46話 職人冥利
「うーん」
俺は唸っていた。
十分とか二十分ではない、数時間は唸っていた。
揃った素材は全て高級品、このレベルなら適当に組み合わせただけでも市販品の倍は効果が期待できる。だがしかし、俺は絶対にそれをしない。いい素材にはいい素材なりの扱いというものが必要なのだ。
杖を作るのも考えたが、それでは拡張性に乏しく、装備を更新したいときに悩むことになる。
となると長く使えるもの、となるのだが、そうなると魔法工房とか魔力増幅装置とか、そういう物になってきてしまう。
「やっぱり、これを作るしかないか……」
――魔力収束炉(アタノール)
持ち運べる程度に小型で、素材を追加、交換することで拡張性も高く、杖よりも高性能。
まあなんというか、玉虫色な条件の触媒だが、それには非常に大きな欠点があった。それは、完全にオーダーメイドで、製作にはかなりのコストがかかるという事だった。
「ニールさん、もうすぐ終業ですけど、先程から何をそんなに悩んでいるんです?」
見かねた工房の職人が、俺に声を掛けてくれた。
「ああ、新しい触媒を自作するんだが、魔力収束炉のデザインが決まらなくてな」
「魔力収束炉! そりゃまた……大変なものを」
「良い素材が手に入ったんだ。ただの杖にするのは惜しいと思わないか?」
そういって俺は職人に素材を見せる。
八咫烏の風切り羽。自然発火するので、常に水の入った瓶に入れておかなければならない。火属性の素材。
氷竜の大腿骨。常に冷気を放っており、直接触れると皮膚が凍り付く為、持ち手が絶対に必要となる。氷属性の素材。
呪象の牙。一切の魔力を受け付けず、いかなる物質とも反応しない究極の絶縁材。
「これは……」
「杖にするのは勿体ないだろう? かといって工房や増幅装置じゃ取り回しができない。そういうわけなんだ」
「……ニールさん、これ、僕たちに任せてくれませんか?」
職人は声を一段低くして、そんな提案をしてきた。
「あ、ああ……これから設計図を書いて頼もうと思っていたところだ。かなり値が張ると思うが、料金は――」
「駄目です!」
話を遮られて、俺は思わず身構えた。
職人は鬼気迫る表情で俺の肩を掴み、額がくっつきそうなほど顔を寄せてきた。
「魔力収束炉ですね? 設計、加工は僕たちでやります。料金は要りません。この素材をいじってみたいんです。任せてくれませんか?」
「え、あの……いい、けど」
勢いに押されて頷くと、職人は突然人が変わったように声を上げた。
「いよっしゃあああああああああああ!!! お前ら! 炉に火入れろ! あとそこのお前! ニールさんの採寸しとけ! 炉の温度が上がる頃には設計図渡すから図面通りに作れ!」
「で、でももうすぐ終業で……」
「ああ!? お前、この素材をいじれるんだぞ! 弄りたくないなら休んでも良いけどな!」
「はあ、素材が何って――呪象の牙!? 了解です! すぐに炉の温度上げてきます!」
スイッチが入った工房の中、俺はメジャーで指の長さまで測られながら呆然とする。
「いや、その……別に急いでる訳じゃないし……」
俺の弱々しい声は、職人の怒声でかき消されてしまった。
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