第45話 飯食ってる場合じゃない
会合の付き添いも終わり、俺は数日ぶりの我が家に帰ってきていた。日も沈み切っていて、村の光もほとんど消えている。気疲れというか、ずっと同じ姿勢でいた疲れで身体がガチガチに強張っている。
ベッドに倒れこむようにして身体を投げ出すと、自分が眠ろうと意識するまでもなく、瞼が落ちてきた。
「……」
気が付くと、何かが身体をまさぐっているような、そんな感触がある。
「んしょっ……ニール、ちゃんと寝なきゃダメだよ」
「ん……」
いや、ちゃんと寝るって、ちょっとまだ体の疲れが抜けないから、一時的にこんな格好で倒れてるだけでだな。
「もうお昼だよ、早く――」
「えっ!? 昼間!?」
飛び起きると、先程まで真っ暗だった窓の外が、今では柔らかな日差しで満たされていた。
嘘だろ、全然寝てた覚えないぞ……
「お、おはよう、ニール」
「ああ、モニカ、おは、よう」
完全に意識を飛ばして眠っていたことにショックを受けつつも、俺はどうやら起こしに来てくれたらしいモニカに挨拶を返す。
「アタシもいるっすよ!」
「全く、疲れてるのはしょうがないけど、ベッドに入るくらいはしなさいよ」
アンジェはモニカの隣からひょっこりと、サーシャは窓から部屋に入ってくる。
「ああ、悪いな、緊張しっぱなしの上、馬車の中じゃ身体も動かせないからさ……っと、そういや杖を買っておくって話、どうなった?」
正直なところあまり期待していないが、作る杖のパーツ取りに使えるなら十分だと思っていた。
「うーん、それなんだけどね、モニカが素材にこだわりだしちゃって――」
サーシャ達が俺の留守中に起きたことを話し始めたので、俺はそれを一通り聞いた。
「――だから、加工の時間が全然取れなくて、呪象の牙と氷竜の大腿骨、あとは八咫烏の風切羽の素材しか集まらなくて……もう素材だけ渡して、ニールに作ってもらおうかなって」
申し訳なさそうに語るモニカがそう締めくくると、俺は静かに彼女の肩を叩いた。
「モニカ、よくやった! 二人も、ありがとう!!」
呪象の牙と言えば、金貨数百枚とか、下手すれば千枚を超えるほどの価値がある素材だ。それに加えてカインと戦った時の魔物素材も保管してあるとは、俺が考える最高の触媒を作れるかもしれない。
「これがあれば氷と火属性の魔法にかなりの威力ボーナスが入るし、呪象の牙なんて高級素材があれば、上手くいけば雷竜の逆鱗とかそういう、さらに強力な素材を含めた拡張性のあるものを作れるかもしれない。とはいえまずはこの三つで出来るものを確実に作り上げてしまいたい。いや、でも正直加工するのも惜しいな、なんせ素材が素材だじっくり考えなければ」
「え、えーっと、ニル兄?」
「モニカとそっくりよね、こういう所」
サーシャとアンジェは呆れたように声を上げるが、それはこの素材がどれほど理想的かを知らないからだ。駆け出しの魔法職が想像で「こんな触媒作れたらサイキョーだなー」とか勉強の合間に書いているような、ほとんど夢物語のような、とにかくすさまじい素材なのだ。
「よし、じゃあ俺は触媒製作に掛かるから!」
三人を放っておいて、俺は三つの素材を抱えて村の工房まで駆けだす。
「ちょっ、ニル兄! ご飯は!?」
「いらない! こっちの方が大事だ!」
「……こういうところ、男の子よねえ」
サーシャの呆れ声が聞こえたが、それも俺を止めることはできなかった。
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