第43話 絶縁素材を求めて3

「ブオオオオオオォォン!!!!」


 アンジェの雄叫びとサーシャの的確な攻撃で、呪象の体力が削れて来ると、それは長い鳴き声を発して本格的な戦闘モードに入る。


「サシャ姉っ!」

「分かってる!」


 アンジェの呼びかけに呼応して、サーシャは弓を引き絞る。今までの連射とは違った、一撃必殺の威力を持たせたものだ。


 それを連続して三発、何もない空に向けて打ち上げると、彼女は懐から再生薬(リジェネレイトポーション)の小瓶を取り出して、一息に飲み込む。筋繊維が損傷する程の強さで引き絞ったため、肉体を再生させる必要があったのだ。


「……!」


 周囲の空気が一変したのはその一瞬後だった。


 呪象を中心に空間が歪んだかと思うと、身体に赤黒い染みのような物が、浮き出してくる。それは常に形を変えつつも、どこか不吉な雰囲気を持っている。


「うっ……」

「くぅっ、効くわね……」

「はは……ちょっと想像以上かもっす」


 それと同時に、三人の動きが急激に鈍くなる。これこそが呪象が金等級に分類されている原因、呪縛体質だった。


――呪縛体質(カースドボディ)

 自分に危害を与える存在に対して発動し、筋力と集中力を五割ほど削ぐ呪縛効果を与えるものだ。


 そして、周囲の魔物たちを含めて呪象は変わらず行動できるため、大勢のパーティで戦おうとも、圧倒的な戦力差があろうとも、一筋縄ではいかないのだ。


「アンジェ! モニカ! やる事は変わらないわよ!」

「了解っす……!」

「っ……はいっ」


 アンジェは雄叫びを上げ、敵の注意を集中させて大盾で攻撃を受けていく、しかし先程よりも明らかに調子が悪く、呪象の攻撃に怯む事もあった。


「――拡散操電っ」


 モニカの魔法は見るからに殲滅力が落ち、アンジェの周囲にいる魔物を一掃できなくなっていた。更にはクールタイムとディレイの延長により、魔法の頻度もかなり落ちている。


「はぁ、はぁっ……っ!!」


 サーシャは攻撃を続けていたが、呪象の体力を削るよりも、雑魚の処理、つまりはモニカの手伝いの比率が大きくなっていた。


 三人ともが呪縛体質の影響でかなりの不利を被り、しかも体を動かす体力も落ちてきている。サーシャの弓は確実に呪象にダメージを与えているが、死に向かう競争は三人の方が早く訪れそうだった。


「くっ、ああっ!」


 遂に攻撃を受けきれなくなったアンジェが、呪象の突進で吹き飛ばされる。彼女は歯を食いしばり、再び耐えようとするが、それもかなわず吹き飛ばされ、盾をも手放してしまう。


「あっ……くっ……」

「アンジェ! 走りなさいっ!」


 転んだ彼女にサーシャは声を上げて指示をする。


「りょう……かいっ!」


 力を振り絞り、アンジェは起き上がるとある一点を目指して駆けだす。呪象はそれを追い、取り巻きの魔物たちもそれに続く。


「ブオオオオオオオッ!!」

「はっ、はっ……うわっ!?」


 彼女は何かに躓いたのか、地面に倒れてしまう。それを見て、呪象は牙がよく見えるように笑った。


「……」


 こけて身動きの取れなくなった獲物をいたぶるように、ゆっくりと呪象は近づき、その足でアンジェを踏み潰そうとする。


 その時だった。


「ブオッ」


 骨をうがつ音と同時に、呪象は短く鳴いた。


「ブッ、ブオッ」


 その音は二度、三度と聞こえ、その度に呪象の目から生気が抜けていき、遂にはその巨体がくずおれてしまった。


「ギギッ?」

「グゲッ?」

「ゲゲゲッ?」


 その姿を見て、魔物たちが不思議そうに呪象を見ていると、そのすぐ上で虹色のもやが発生した。


「きたれ、いかづち――雷帝降臨」


 その声と同時に雷光が世界を焼き、周囲にいるものを一掃する。


 地面に伏せていたサーシャと、倒れて姿勢を低く保っていたアンジェを除いて。

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