第29話 第五の罪源1
「ユナ、話はそのくらいにして村へ戻ろう。エレンが心配しているはずだ」
俺はモニカの頭を撫でまわす彼女を諫めて、帰り道を指差す。彼女も全くの思慮なくそれをしていたわけではないので、笑って頷いてくれた。
「ええ、じゃあ早く戻ってみんなを安心さ――」
話の途中、燃え盛る炎から異様な気配を感じ全員がその方向を向く。
「……」
一見して何の変化もなく、少しづつ形を失っていく橋だったが、少し火の勢いがおかしいように感じる。既に粗方燃やし尽くして、弱まるはずの炎が、さらに勢いを増しているように感じたのだ。
「――ちっ、油断したところを焼き殺そうと思ったのに」
不思議と、その言葉は燃える炎よりもはっきりと聞こえて、俺の耳朶に一種のなつかしさをもたらした。すぐ脇ではモニカが怯えるように両耳を塞ぎ、うずくまっている。
「まあ、いいや、逃げ出したモニカをぶっ殺そうと思って氷竜に偵察させたら、お前まで連れるとはな、ニール」
「……随分、戦い方が様変わりしたな」
俺の記憶が正しければ、あいつはただの剣士で、魔法はおろか魔物の使役などできる筈が無かった。
「あー、なんだっけ? 強欲者? それになったんだわ」
強欲者……自らの悪徳によって、能力を捻じ曲げてしまった存在、通常ならそれが判明した時点で拘束、もしくは処刑に準じる何かがあってしかるべきだったが、どうやら彼は美味いこと逃げおおせたらしい。
「てぇわけで、お前もついでに死ね」
炎がにわかに沸き立ち、巨大な鳥の姿になると、俺たちへと襲い掛かってくる。
「二人とも俺に寄れっ! ……防壁っ!」
最後の急造杖を使い、炎の突進を凌ぐ、突進してきた炎はその体積を縮めて赤く輝く鳥になる。その足は三本あり、それらを使って一人の人間を吊り下げていた。
「八咫烏(セイクリッドクロウ)……魔道に落ちたか、カイン!」
――八咫烏
一部地域では信仰の対象にすらなる火属性の魔物、等級は金であり、氷竜とは比にならない強さを持つ。
知能が高く、気位の高い魔物だが、それを手名付けられるという事は、カインの適性はかなり高いようだ。
「魔道でも何でもねえよ、俺はこの職業が性に合ってるんだ。この力さえあればなんでも思い通りになる……なあ、モニカ?」
突然声を掛けられて、モニカは身体を大きく震わせる。
「カ、カイン……」
「ニール、俺は前々から思い通りにならなかったお前が嫌いだったんだ。そこで俺は今、最高にスカッとする復讐方法を思いついたぜ……モニカ、ニールに最大火力で魔法を打て」
「や、やだっ、やりたく――」
「やれよ愚図がっ! テメェのせいで俺がどれだけめんどくせえことになったか、分かってんのか!? ああ!!?」
「っ……!!」
怒声が響くと、モニカは黙り込んでしまう。意志の弱い人間を支配する。強欲者が持つユニークスキルだ。
「……す、ざざす、なさた……、ざ……――」
モニカはゆっくりと、しかしはっきりと魔法発動の準備に入る。この詠唱はかなり上位の魔法だ。
「モニカ!? 自分をしっかり持てっ!」
「どうしたのモニカちゃん!? 今は魔法なんて撃っちゃダメよ!」
「……きたれ、いかづち」
しかし、俺たちの言葉空しく、モニカは魔法発動の詠唱を終えてしまう。
「――雷帝降臨」
モニカが魔法を発動させた瞬間、辺りの景色は漂白された。
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