第28話 ドラゴンスレイヤー3

 再び体に冷気を纏った氷竜は、先程とは違って空中で浮遊しつつユナと対峙する。地上にいたままでは、冷気の鎧を纏い続けることが難しいと判断しての事だった。


「キョアアアアァァッ!!」


 ブレスを吐き、川ごと凍結させる。しかしその冷気は、ユナの周囲に放たれた火属性魔法によって、彼女を侵すことはできなかった。


 近くにある建設中の橋は、支柱も何もかもが凍り付き、既に使い物にならなくなっている。氷竜はそこを中心にして不死種の襲撃者と戦っている。


「――っ」


 剃刀のように鋭い爪が、鱗を傷つける。再生したばかりの氷鱗は、強度がまだ足りていなかった。距離を取ろうと高度を上げるが、不死種の狩猟者は地面を蹴るだけで容易に氷竜へと接近してくる。


「キシャアアアァァッ!!! クァ――」


 氷竜がブレスを吐き、ユナを凍てつかせようとした瞬間、氷竜の側で爆発が起きた。


 三撃目の火属性魔法は、氷竜自身を狙うことなく、それの近くにある建設中の橋へ落ちたのだ。それは橋を構成する橋脚、支柱、橋げた、全てを炎上させ、それと同時に莫大な熱を発生させる。


「ギャアアアァァアアァッ!! ギョアアアァァァアアッ!!!」


 凍てつかせた川からは水をくみ上げる事すら不可能で、羽ばたきにより熱を避けようにも火の勢いは増すばかりだ。明らかに氷竜の動きが鈍ったのが誰の目にも明らかだった。


 溜まらず氷竜は地上に降り立ち、積もった雪により熱から逃げようとするが、それは狩猟者の思うつぼだった。


「地楔っ(アースバインド)!」


 透き通る銀翼が凍り付いた地面を突き破って出てきた岩の楔によって貫かれ、その楔が自在に変形して氷竜を地面につなぎとめる。


「キョアアアアァァッ!! ギョオアアアァァァッ!!!」


 苦しむような声を上げ、もがく氷竜の頭上から、再度超火力の火球が落ちてきた。



――



 俺はにわかに和らいだ寒気を感じながら、地面に穿たれた黒焦げの穴を見ていた。夜の為、あまりよく見えないが煤にまみれた銀色の鱗が見える。周囲の寒さが和らいだことと合わせて、間違いなく討伐は出来ているだろう。


「どう……? ニール」

「ああ、死んでるな、よくやったモニカ」


 恐る恐る様子を見に来たモニカに、安心させるように声を掛け、俺は今だに炎上する橋を見た。


「橋を燃やしたのは本末転倒だったかもしれないわね」


 ユナの言葉に、俺は苦笑いする。


「と言っても、殺すか殺されるかの段階まで来ちゃったら、効率とかそういうのは二の次だろ」


 それはユナも同じ意見なようで、彼女はいたずらっぽく笑うと、モニカを撫でた。


「うん、貴方の判断がよかったから、無事に討伐できたわ、ありがとう」

「え、えっと……」


 あわあわとするモニカを見て、俺は微笑ましい気持ちになった。


 モニカはもともと気弱な部分があり、今回の橋を燃やして熱源にする作戦も考え抜いたうえでの判断だったのだろう。恐らくユナはそれを察して、わざわざ言葉に出して感謝を伝えたんだと思う。彼女のさりげない気づかいは、俺もたびたび助けてもらっている。


「うーん、かわいいっ、お母さんって呼んでもいいのよ?」

「あ、あの……えっ?」


 ……うん、まあ、助かってはいるんだ。助かっては。

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