第三章

第20話 神託の儀

 魔物集落が無くなったおかげで、領主館を一度経由しなければ通商路へ出られなかった村も、急ピッチで道の整備が始まった。


 旧道自体は自然に飲み込まれかけていたが存在していたため、木の伐採と道の修繕で想像以上に早い。通常なら通商路の整備は年単位の事業だ。


 恐らく、この村は東の通商路と領主館、さらにそこから繋がる通商路への道の途中にあるものだったのだろう。それが魔物の出現により橋を落とし、経済的な流通が無くなったため廃村になった。そんなところか。


「あ、ニールさん。おはようございます」


 俺達が移住する前に起きていた村の興亡を想像しながら歩いていると、メイが声を掛けてくれた。


「ああ、おはよう。今日は神託を受けに行く日だったか」

「はい、私の村では、今までそんなに重要じゃなかったんですけど、流石に開拓するなら必要だろうって事で、今日ようやく準備が整ったんです」


――神託

 神官のみが扱える特殊技能で、職業適性を占うことができる。

 冒険者になるなら普通は通るべき場所で、大体が剣士だとか魔法使い、他にも農夫や鍛冶屋みたいな適性を教えてもらえる。


 ちなみにこれは「剣士になったから絶対に剣の修行に明け暮れなければならない」なんて事は無く、あくまで生まれながらの適性についての話だ。


 戦士の適性を持ってる農夫なんてそこら辺にいるし、魔法使いの適性を持ってるのに騎士になってる奴もいる。向いている職業を教えてもらう作業であって、未来が確定する作業ではない。


 ちなみにそれ以外にも意味があるにはあるのだが、まあそこは省いていいだろう。


「今回は船とか橋を渡すための工事に、適性のある人は居ないか調べるそうです。ニールさんも来ますか?」

「ん? ああ、じゃあ俺も行こうか」


 随分こちらの生活にも慣れてきて、みんなここでの生活を受け入れてくれているが、このままでは先細りして、ここが再び廃村になるのは目に見えている。


 いつかあの村に戻るにしても、ここで定住するにしても、開拓技術を測るために神託はしておくべきだった。


 俺はメイについて行き、村の中心にある教会へと足を向ける。



――



「ふむ……そなたへの神託は『魔法使い』だな、特に水属性への適性が高いようだ」


 厳かな雰囲気で順番を待つ人々と、聖衣に身を包んだガロア神父が、信託の儀式を行っていた。


 ガロア神父を何とかしてこの村まで連れてきたのは、そういう意味だった。彼さえいれば適材適所の人員配置がとても簡単になる。


「そなたは『剣士』だな、力強く剣をふるう鍛錬を行えば、岩をも切り裂く剛腕の剣士になれるだろう」


 一喜一憂するような雰囲気ではなく、淡々と進んでいくその様子は、どうにも好きになれなかった。


「そうだ、どうせならニールさんも受けたらどうですか?」

「……そうだな、どうせ全員分聞くつもりだったし、受けていくか」


 俺の内心をよそに、メイはそんな提案をしてくる。断ろうかと思ったが、そうある機会でもないので、受けることにした。


 神託は二回目以降にもきちんとした意味がある。それはパッシブスキルの更新と称号の獲得……つまるところ、ユニークスキルの判明だ。


 今までの行動と戦闘実績においてパッシブスキルの更新が行われ、魔法マスタリーや耐性貫通などのレベルが上がったり、逆に使わない技能はレベルが下がったりもする。


 これらの上がりやすさ、下がりにくさが適性であり、適性に沿って鍛錬を行うことが、単純な近道というわけだ。


 そして、スキルレベルが一定以上になると職業が付与される。例えば「大賢者」とか「暗殺者」みたいなものだ。各々の職業が付与されると、それに応じたユニークスキルが発現する。


 大賢者は「魔防無視」暗殺者は「致命の一撃」だが、一部の職業には二つのユニークスキルがつく事もあるらしい。


「……そなたか」


 順番を待ちつつ、他の村人に有用な適性が無いか探っていると、俺の番になった。ガロア神父は途轍もなく嫌そうな顔をして、俺に神託の儀式を行っていく。


「――」


 神託を受け取ったガロア神父はさらに顔の皴を深くする。そこまで俺の事が嫌いか。


「そなたには……先導者(ベルウェザー)の称号が与えられる」


 ……先導者? 俺は聞いたことのない称号に首をかしげつつ、ガロア神父が儀式を続けるのを聞いていた。

 

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