第34話 すでにズタズタです!
「ぐぅ……ぐっ!」
「……なんと」
なんだよ、とんでもない化け物感出しておいて、意外と真っ当な人間らしい驚き方するんじゃないか。両目をまん丸にして驚くさまは、どんな生物でも同じなのかもしれない。
まぁ、攻撃側であるガンドレッドからすれば、今のこの状況はまさに虚を突かれたの一言だろう。今までディメンションによる奇襲攻撃を、こんな手段で防いだ人間なんて、絶対にいない。少なくとも僕はこんな手段、書いている時に思いついていない。
今、ハイムの首は奴に捕まれている。
骨を砕かれていないのは、そして骨格を雑巾のように捻り潰されていないのは、僕がカチコチに固くなったからだ。
『た、助かったぁ……でも、どうする……?』
——白銀の剣が手元にないことに気づいた僕の判断は、まさに神がかりだった。
『——パワーガルディウム!』
青き剛腕がハイムの首に触れた瞬間、僕はハイムの魔法戦術を発動。全身の膂力を大幅強化し、同時に肉体を構成するありとあらゆる筋肉に力を込めた。
特に首を初めとした神経の集約点や、関節回りの筋肉には規定量以上の魔力を消費し、鋼鉄の如き耐久まで引き上げた。だからこそ、奴は今こちらの首の骨を絶てないのだ。
「おのれぇ……ふんっ!」
「っっっ!!」
ガンドレッドが力んだ腕をさらに力ませ、頭頂にもう片方の腕を伸ばす。そして唇を離さぬままに歯を食いしばり、一気にこちらの骨を砕きにかかった。
「ぬぅぅぅ……」
「ぐぐっ、ぐぅぅぅぅ…………」
見てくれからわかり切っていたことだけど、やっぱりとんでもないパワーだ……こっちは魔法戦術まで使って肉体を強化しているのに、それと拮抗するほどのパワーを、素の状態から引き出しているなんて……。
くそ、どこだ? 剣はどこにある? せめて場所だけでも——
「————っ!」
「む……そなた、もうこの力のからくりを見抜いているのか……」
危なかったぁぁぁ! 今僕、ブルーベリー筋肉から目を離そうとしちゃった! マジで死ぬから本当やめて! マジで!
『くそ……探すこともできないのか……っ!』
少しでも敵の所在を意識外に追いやれば、その瞬間に奴は一度こちらを離し、再び認識外からの奇襲を仕掛けてくる。次もまたタイミングよくこの状況に持ち込むことなんてできるわけがない。目を逸らした先にあるのは、間違いなく僕とハイムの死だ。
でもだからといって、この状況を続けるわけにはいかない。こちらは魔法戦術、大して相手は正真正銘の腕力。持久戦になった場合、魔力に膂力を依存しているこちらが先にギブアップするのは明白。二人揃って周りの兵士と同じ、人間ボロ雑巾のできあがりだ。
『ぐっぉ、こっ、ここは……主人公を信じて……』
体力と寿命のリボ払い、もう一度……やりますかっ!
『パワー……ガルディウムぅぅぅ!』
重ねがけの詠唱、それはすなわち限界を迎えた肉体をさらに鞭うつ、限界突破のほら貝となった。
「だぁぁぁぁぁぁ————!」
「ぬおっ!?」
魔力増幅の波動と筋肉の膨張が同時に怒り、共振的に膨れ上がった衝撃が剛腕を吹き飛ばす。ガンドレッドは後方へと押し戻され、足元には車のタイヤ痕のような滑り跡を作った。
『戦況打開っ!』
指差呼称と共に、僕は右足の関節を無理強いしてしゃがみ、真正面へ跳躍。自らを鉄砲玉に置き換え、正拳突きの構えを作りながら突進した。
「————」
号砲に似た鈍い衝撃音が轟き、筋肉の塊であったガンドレッドの身体は、本陣中央にそびえていた大木に激突。つけていた葉が紙吹雪のように宙を舞った。
「ぐぅ! がぁぁ……っ……!」
途端に全身を駆け巡る激痛。奴の手でなくとも、全身の骨が崩れていくような感覚を味わう。でもこれは予定調和。わかっていたことだ。ハイムの代わりに耐えて、視線を周囲に向ける。
『ど、どごに……あぁ、あっだ!』
心中の言葉すら満足に話せない痛みの渦の中で、僕は野ざらしになっていた救急室の机に立てかけられた、白銀の剣を発見する。
「がぁぁ!」
飛び込み、手を伸ばし、鞘を掴んで視線を戻す。
「——だはぁ! はぁ……はぁ……」
「くっ……打ち止めか……」
目を向けたその先にいたガンドレッドは、両手を開き前傾姿勢を取っていた。どうやら間一髪で、ディメンションの発動を阻止できたみたいだ。
「はぁ……はぁ……ははっ、ざ、残念だったな……もうディメンションは使わせないぜ……」
「そなた……この力の名まで知っていたのか……どうりでカラクリがバレているわけだ」
何感心しましたみたいな笑み浮かべてんだよ、こっちはもう身体の節々がズキズキ言ってるんだって。もう戦う余裕なんて微塵もないんだって。何で渾身の右ストレート、みぞおちにぶち込んだっていうのに元気なんだよ、戦闘狂ブルーベリーめ……。
『武器は掴めた……でも、これを振り回す体力が……』
立てない……膝を立ててガンドレッドを見たまま、足腰が動かない……シャンザークの時も重ねがけは行ったけど、今回は元々の肉体が傷ついていた分、反動ダメージがあの時の比じゃないぞ。もう手は出し切ったと言っても過言じゃない。
『でも、敵の手は封じた……あいつの拳打は当たらなければいい……もうそう腹を決めてやるしか——』
「——さて、試しの時は終わった」
ガンドレッドが笑う。薄気味悪いほどに笑っている。例えるならそれは、本当の楽しみを見つけた子供のような笑顔だ。純粋なのが余計に気色悪い。
「所詮は敗者から奪い取った力。そなたには攻略出来て当然であったか」
「な、何を言って——」
「——これよりは、我の戦をさせてもらうぞ」
……おいおい、第二ラウンドってことだよね、それ。
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