第27話 また始まります!
「それでそれで、あの最終局面でのハイムの一言が、本当に忘れられなくて!」
「あ……あははっ、そんなに覚えてくれていたなんて、驚きだよ……」
俺はこの日、原田芽亜から思いを告げられた。
——作品への深く熱い思いを。
「あれ? どうしたの夢の浩平君。元気ないよ?」
「あははは……なんでもないよ」
気持ちを切り替えろ自分。こういう展開は様々な作品であるじゃないか。今までに何度も見てきたはずだろ? 作品を読みながら「あぁ、どうせこの告白は本命のものじゃないだろ」って見方ができてたはずだ。
それに嬉しいことじゃないか。誰からも評価されなかった凡作でも、好きと言ってくれる人がいたことが分かったんだから。
だから勘違いするなよ。僕に好意を持つ人なんていない。こんな卑屈で根性なしの僕になんか、いるわけがない……辛い。
「本当に、この夢が醒めなければいいのに……」
彼女の視線が、満天の星空を見上げる。その横顔は幸せと希望に満ち溢れ、どれだけこの状況に歓喜しているかが見て取れた。
ちなみに話の間で、この世界が夢じゃないことは何度も説明した。だがこの世界が虚構であることを完全に信じ切ってしまった原田さんは「わかってるよ。これは 現実だよね! もう私目覚めないよね!」と、曲解もいい加減にしてくれと文句が出る結論を出してしまった。この雰囲気的に、僕がここで言うだけでは信じてもらえないだろう。
なら今は彼女の解釈に合わせて、こちらが聞きたいことを引き出すべきだ。
「ねぇ原田さん。この夢を見る前、何か声を聞かなかった?」
「ん? 声? あぁそういえば……女性の声が聞こえた気がするような、しないような感じ?」
そこのところは不透明、か。恐らくは言われてると思うけど、そこも夢と現の境界線が曖昧なのかもしれない。
「そうなんだ……あ! それと、どうしてハイム達と話せたの⁉」
「どうしてって……別に普通に話せたよ? 浩平君はできないの?」
特に何も意識していない……どうやら彼女は僕やあいつとは違って、生身でこの世界の人間と接触できるらしい。なんとも羨ましい境遇だ。
結局、原田さんの供述から得られた情報はなし、か。だが彼女も間違いなく、装置によってこの世界に呼ばれた人間だろう。いよいよ現実からの訪問者も、三人目を数えたわけだ。
「あのさ……落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
「はいはい。この世界は本物なんでしょ? 分かってるって」
「あ、いやそうじゃなくて——もしこの夢が、しばらくの間続くとしたら、どうする?」
装置に近づくのは、僕や彼女単独では絶対にダメだ。翔太が確実に門番として立ちはだかるだろう。僕を一切の躊躇なく殺そうとした翔太なら、きっと原田さんもその対象になるはず。何も理解できていない原田さんを、見殺しにするわけにはいかない。
つまり、僕らがあの装置に近づくためには、この世界の人間が共にいることが必要だ。願わくば、自分達を守れる戦力つきで。
だから、原田さんは不安だろうけど——
「——どうもこうも、その方が私は嬉しいな」
「え? い、いいの?」
そこで帰ってきたのは、少々予想外のものだった。
「うん。だってここは、私が夢見た世界なんだもの。なら、ずっといたいに決まってるでしょ?」
「で、でもいつまでも夢が続いたら、流石に怖くならない? それと、僕は正真正銘の——」
「——ここなら私らしくいられる気がするし。それに……た、たとえ想像の人でも、こ、ここ浩平君となら……」
「ん? 僕?」
「うんうんなんでもない! と、とにかく、私は大丈夫! 全然夢の中でオッケーだよ!」
そう簡単にオッケーとかいうものじゃないと思うが……本当に大丈夫かな。まぁ、いいか。
一応の言質を取った僕は、咳払いを挟んで緊張をほぐし、改めて彼女の目を見つめる。妙に仰々しい雰囲気を感じ取った彼女もまた、まっすぐに僕の目を見つめ返してくれた。
「これから僕は、ハイム達と共に行動することにする。その方が色々と都合がいいし、きっと現実世界に帰る手段が見つかると思うんだ。だから……一緒にいかないかい?」
「えっ⁉ そ、それって、つまり……浩平君やハイムと一緒に旅を……」
本当に楽しんでる顔してるよ。この状況でよくぞそんなアニメ顔負けの笑顔ができるな。ピンクのパジャマと彼女のおかっぱ頭も相まって、不自然なほど幼く見える。知らぬが仏、という言葉を残した人は、きっと天才だ。
「うん! 一緒に行く! 大冒険する!」
「そ、そんな期待しないでね……」
彼女は僕の両手を掴み、商談成立とばかりにぶんぶんと振り回す。今ここに、僕は現実世界からの仲間を手に入れたのである。
幸先は……かなり不安だが。
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そして太陽は再び空に返り咲き、ようやく長かった地獄の夜が終わりを告げた。心待ちにしていた朝日が、いつも以上に眩しい。街はまだ瓦礫のままだったが、人々はその輝きに心を癒し、死者の御霊を弔っていた。
そんな中、僕達は何をしているかというと——
「——というわけで、君達二人には今からフーリオ戦線に向かってもらう。連邦軍はかなりの苦戦を強いられているっていうから、気をつけて援軍に行っておいで」
「「はっ!」」
そう。あの忌まわしき副団長のいる、指令室だ。
今日の朝、本部からの連絡で招集されたハイムとローゼは、即戦力として遠方の戦線であるフーリオ戦線に送られることとなった。
といっても、今目の前で適当に命令を下すのは、恐らくは翔太ではなく、キャラクターとしてのショウタの人格だ。僕や原田さんに気づいている様子が微塵もないし、この流れは本来の物語のものだ。
今は分離しているのだろうか。それともショウタ・ゲイルの中で寝たりしているのだろうか。まぁどちらにせよ、会わなくて本当によかった。
「そういやハイム君。けっこうメンタルボロボロみたいだったけど、大丈夫そう?」
「はい。もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
やや挑発気味に言うショウタの言葉に、ハイムの快活な丁寧語が返される。いい感じにヘイトを返されたのか、ショウタの眉が一瞬歪んだのは、きっとここにいる誰もがわかっただろう。
「では、これより出立致します」
「……はいよー、行ってらっしゃい」
ローゼの素晴らしい幕引きが功を奏し、現場の空気が燃え上がる前に、僕達は指令室を出た。
入口では、原田さんとミルシアの二人が、僕達を待ってくれていた。
「はぁぁ……ハイムとローゼのツートップが、本部から堂々と出撃……なんてエモい光景なの」
「あんたねぇ、その気持ち悪い視線二度としないでよ。それと、任務中は絶対にハイムに近づかないこと。いいわね?」
「は~い、ローゼちゃん」
「ちゃん付けもやめること! いいわね!」
あの後、ハイムの元に戻った原田さんは、オタクの持つ固有スキルである『驚異的な圧』で宿舎に泊めてもらい、朝も同じようにしてローゼに接近。二度と再構築不可能なほど信頼感をぶち壊した代わりに、一緒について行く了承を得ることができたのである。
「みんな気をつけてね。わたし待ってるから」
「あぁ、勉強頑張れよ」
ミルシアは魔法学校への編入が決まったので、こちらにお留守番だ。しばらくは学校の寮で一人暮らしだが、彼女なら問題ないだろう。
僕はハイムの馬に、原田さんはローゼの馬に乗り、蹄の音が響き渡る。
多くの謎を残した旅が、今再び始まった。
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ここまで作品を読んで下さった方々、誠にありがとうございます。
現在、自分自身作品を見直し、色々な矛盾点や表現不足の点を見つけ、順次修正をしています。今までお見苦しい文章をお見せしてしまい、申し訳ございません。今後は構成を熟考し、ミスのないよう尽力致します。
また、現在二作目のプロットを考えている最中でして、今後は作品投稿が遅くなるかもしれません。もし作品の更新を待ち望まれている方がおりましたら、どうか気長にお待ち頂けますと幸いです。
今後とも、どうぞよろしくお願い致します。 作者より
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