わたし、世界一幸せな下僕です。

黒崎

プリン山本編

プロローグ、的な。


「ちょ……! なんで裸なの!?」

「履いてんだろ、下。テンションあげるな」

「誰があげとるか!」


 皆さん、初めまして。私、下野しものエリカと申します。ハタチです。


 冒頭から叫んでしまいましたが、上半身裸で下はスウェットなコイツのせいです。

 上原うえはらケイ。24歳。黙っていれば美形、口を開けば傍若無人、中身はクズな男です。


「あー、あちぃ」

「そんな姿でうろつくな、うっとうしい!」

「喚くな、うっとうしい」


 私はこの男と二人で暮らしています。

 え、恋人?

 ふふ、最高につまらない冗談。


 この男と暮らし始めてもうすぐひと月になりますが、こんな見た目だけの男、誰にも相手されないと思いますね。

 ほんとクズだもの。


 見た目はね、ほんと素敵です。

 180センチという高身長、すらりと長い手足、無駄な肉はなく程よい筋肉。骨ばっている手は大きいし指も長い。爪だってキレイ、女爪っていうの? 丸くないのよ。


 白肌に映える黒髪はおしゃれパーマ(実際はただのクセ毛。でもそう見えない)、キリッとした眉、高くて整い過ぎてる鼻、厚過ぎず薄過ぎずの唇、スッと切れ長の涼し気な二重。シャープなフェイスライン。

 少し目を伏せるだけで、ほら見て。まるで絵画。


 芸能事務所にスカウトされた経験も噂ですが聞いたことがあります。納得です。


 だけどもそんな見た目に騙されてはいけない。騙されてもいいなんて思ってもいけない。コイツと付き合ったりしたら、絶対泣くことになる。


 コイツの好きなものをあげていきます。


・女(特に巨乳)

・ギャンブル

・酒

・タバコ


 次にコイツの嫌いなものをあげていきます。


・仕事

・勤労

・労働


 ね、絶対女は苦労する。

 おすすめしません。


「おーいー、お前窓開けてんじゃん。どうりで暑い筈だわ」

「換気しないとアンタの煙草の匂いが凄いんだよ」

「クーラーきかねぇだろ」

「クーラーはついてない!」


 さて、では私たちの関係はというと、家族ではありません。

 私とコイツの関係は、


「下僕、アイス」

「下野です!」


 下僕……、ではないです。でもコイツは本気でそう思っているかもしれませんね。

 私はコイツに借金をしています。正確に言うと、私が結婚する筈だった相手が私を保証人にしてコイツから借金をしました。


 話すとね、長くなるのですが……かいつまんで説明します。


 私たちの住まう街とは違うここで結婚式を挙げる予定でした。

 プロポーズを受けてから一月後くらいでしょうか、彼は挙式の全てを準備したといって私をここへ連れてきたのです。


 嬉しかった。

 お嫁さんという夢が叶うわけですからね。


 ですが彼が向かったのはとある一軒家。こっからは早送りでお伝えします、思い出すとちょっと涙出そうなので。てか既にじんわりしてきたので。


 上原ケイ現る→彼、私を突き出す→私何かに署名させられる→トイレに行くと出て行った彼はそのままドロン。


 トイレ長いなぁって呟いたのは一時間程して。すると上原ケイに言われます。「お前馬鹿なの? お前売ってアイツ消えたんじゃん」と。


 受け入れられるわけはありませんでした。

 彼を追いかけようと思いました。

 しかし携帯は着拒、メッセージもブロックされている。自宅、知らない。


 困り果てました。

 だって私、結婚を機に仕事を辞めましたし、丁度更新月だった家も解約していたのです。そのことは相手も知ってたんですよ。うちで暮らそうなんて言ってたんですよアイツまじクソ。


 というわけで私はコイツに土下座して、今に至るのです。

 条件は借金を返済すること。

 コイツのなんかようわからん仕事を手伝うこと。


 それさえちゃんとしていれば衣食住は保証されています。食費は別途かかりますが、安いものです。


「あー、あちぃ!」

「うるっさい! でかい声出すな、暑い!」

「どうにかしろ」

「アンタがクーラーのリモコンなくすからでしょ!」

「俺じゃない」

「アンタだよ、酔っ払って帰ってきてから行方不明なんだから。絶対どっかにやっちゃったんだよ」


 ちょっときゃんきゃんうるさいのでアイスでも出してやろう。

 いや、いっそ氷をスウェットの中に突っ込んでやるのがいいかもしれない。あ、それいいわ。そうしよ。


 だだっ広いリビングを進み冷蔵庫へ。

 ガチャと開けた冷凍庫から氷を取り出そうとして、「あっ!」叫び声が出てしまいました。


「なーにー、うるさいよ」

「あった! リモコン!」

「よくやった」


 絶対コイツだ、コイツ冷凍庫にリモコンしまってやがった。最悪だ。


「動くかな」

「はやくはやく」


 ひんやり冷たいそれをタオルで拭う私のそばにぴとっと張りつくイケメン、暑いなぁもう。

 恐る恐る起動ボタンを押して数秒、出てきた冷風に思わずハイタッチしました。


「あー、生き返る……」

「冷凍庫に入ってたんですけど」

「ビールでも飲む?」

「まだ昼間ですよ」

「いいじゃん、お祝い」

「その前にアンタ冷凍庫に何でも入れないで」


 私がこのイケメン――ケイさんについて知っているのは名前と年、人に貸せる程度には金があるということ。

 何やらパソコンでちょこちょこやってたりしてますが何かは知りません。

 あとは近所の困った人たちがケイさんを頼ってやってくる、ということくらい。私が手伝うのはこの困った人たちを助けるということです。


 まぁ言うて、アレですよ。ペット探したりペット預かったりペット予防接種連れてったり。あれ、ペット屋さん?

 あとは夫婦の喧嘩に巻き込まれたり……。


 私は近くのスナックで働いてます。

 勿論この人に返済するためです。でもこの人客として飲みに来るんですよ、支払い私にツケて。まじどんな神経してんだろコイツ。



「上原さーん、ちょっとお願いがあるんだけど」

「はいはい、どうしたの」

「いやね、うちのジョンがいなくなっちゃって」

「また? いい加減紐つけとけよ」

「ケイさん、オウムに紐は……」



 さぁ、仕事です。この依頼(といっていいものか)を解決して得られる報酬はいくらかは私には知り得ませんが、動かなくては。

 私の返済生活は始まったばかりなのだから――


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る