ギルドで初めてのご飯

 バックいっぱいになったので帰ろうと上を見ると暗くなってきていて焦る。門が閉まってしまう。石壁を乗り越えるのはちょっとまずい。急いで森を駆け抜け、門に向かってひた走る。少ない人の列に並んでなんとか間に合う。危ない。街の中に入って見渡したけど、ほとんどの店は閉まっている。ご飯を食べたいな。冒険者ギルドの前で美味しそうなニオイがした。中を覗くと酒を飲みながら肉を食べたり、パンを食べている。食事にありつけるかもしれないと、そっと中に入って、酒場のカウンターに向かう。

「パンと肉、食べられる?」

 給仕をしているおばちゃんに聞いてみる。

「お金が払えるんなら大丈夫だよ」

「どこでも座っていいの?」

「テーブルは酔っ払いが多いからそっちのカウンターに座りなよ。カウンターでのケンカやもめ事は酒場の主人が嫌うから、おこしたヤツは酒が出なくなるんで人がいないのさ」

「そうなんだ。ありがとう」

「ゆっくり食べな。うるさいけどね」

 カウンターと言われた長いテーブルにちょっと高めのイスが置いてある。座っている人を見ると、大人の人にはちょうどいいようだ。ヘルセさんだ。食べて薬草の選別をしないといけないから離れて座る。イスに座るけど高い、肩ぐらいある。食べられるけど。

「少年、ここは初めてだな。酒にするのか?」

「成人してないからやめとく。何か食べさせて。なにがあるの?」

「パンと肉の揚げ物、炒め物、焼いた物だな。野菜の盛り合わせもある。今日はスープが売り切れたからない。どうする?」

「パンと肉の揚げ物。支払いはギルドカードでいい?」

「そっちの方が助かる。大銅貨で4枚だ」

 カードを渡して、精算して返してもらう。安い気がするな。

「冒険者だったら級なんか関係なく、安く提供する。冒険者は体が資本だからな」

「安いのは嬉しい」

「おう、待ってろよ」

 ごはん、ごはん~。お腹が空いては選別がはかどらない。ウキウキしながら、肉の揚げ物とか安く作ってていいね。やった。先にパンが出された。

「飲み物ってお酒しかないの?」

「そうだな、他は水ぐらいか」

「コップだけ借りていい?水は自分で出せるから」

 いいぜと木製のジョッキを置かれた。それに水を出して、パンをかじりながら揚げ物を待つ。喉が渇いて水とパンを交互に口をつけている。まだかな?まだかな?

「お待たせ。唐揚げだ」

 何の肉かは聞かない。安いということは魔物の肉だろう。茶色い揚げ物をフォークを刺してかじる。あつ!熱いけど肉汁が口の中に広がる。おいしい。ほくほくのできたては美味しい。温かい食事を1人楽しむ。

「珍しい人がいるのね?」

 ジョッキを片手に隣の席へ、ヘルセさんが座る。お酒臭いよ?

「こんばんは、ヘルセさん」

「ランス君は夕食?」

「うん、ポーションの薬草を採りに行ってたら、店が閉まってた。食事も出来るからここで食べてるよ」

「何飲んでるの?」

「水だけど」

「ダメよ、エール飲まないと」

 ええ??

「まだ成人してないからやめとく。この後、採ってきた薬草を分けないといけないから。ローポーションを作って行けっていったのヘルセさんでしょう?」

「いいから付き合いなさいよ」

「まだやることがあるの。ご飯食べに来たの」

 唐揚げとパンを駆け込みながら説明する。

「いいから、いるだけでいいから」

「食べ終わるまでだよ?」

「それで我慢してあげる」

 酔っているからどうしていいかわからない。ぐいぐい体を押しつけるのはやめて欲しい。食べにくい。

「サラダちょうだい。エールも追加よ。冷たいのがいい」

「ギルド長、そんな高価な魔道具は王都ぐらいにしか置いてませんよ」

 渋々といった感じでエールとサラダを出す。エッジさんが厨房の中から出てくる。

「冷やす魔道具を買ってくれるんですか?」

「こんな支部ギルドじゃ無理よ、ダンジョンとか強力なモンスター地帯があるとかで潤ってないとね」

「冷やせばいいの?」

「「え?」」

 口をもぐもぐとパンを飲み込む。

「ジョッキの部分を凍らせてみるね」

「「は?」」

 木製の取っ手まで霜が降りて凍り付かせる。

「中が見えないけど、これいい?」

「こ、氷の属性魔法!?上級魔法じゃない」

「うん、知ってる」

 大きめの唐揚げに食いついて食べていく。じっとこちらを見ているんだけど。後ろもなんか騒がしい。

「Lv.7で使えるみたい。スキルレベルの伸びがなかったからと思ってたんだけど、上級が使えるのがわかったの」

「じゃあ、ソルと戦ったときは使っていなかったの?」

「知らなかったし、今まで通りの4属性で練習してた」

「冷たい」

 取っ手を握りながらエールを飲んでいく。

「中はまだぬるいわね。冷やせないの?」

「凍ったら飲めないでしょう?」

「じゃあ、この中に氷を入れて」

 ジョッキのちょっと上で氷の破片を作り出してそのまま落とす。氷って溶けるけどなくならないよね?水ではそんなに気にならなかったけど。

「普通に無茶なことをあっさりと」

「ちょっと薄くなったけど、冷たくなって美味しくなったわ」

「それはよかった」

 最後のパンと唐揚げを食べ終わるとイスから降りる。振り返ると酔っ払い冒険者達が目つき鋭くジョッキを持っている。

「なあ、俺たちにも氷くれよ」

「冷たいエールが飲みたい」

「ギルド長だけずるいぞ」

「冷えたエール」

 舌なめずりした人達に恐怖を覚える。イスに戻って見ないふりをする。

「あれは俺でも厳しいか。しゃあない、この上に氷の塊を出せるか?」

 大きめのトレイを持ってきてカウンターに置く。

「高さは?」

 このくらいか?と指定された高さでトレイの大きさに氷を作り出す。

「これで帰っても大丈夫かな?」

「こいつに手を出したヤツは氷はやらないからな」

「「「わかったからエールをくれ」」」

 飢えた狼のように鋭く睨みつけるように、氷を見つめている冒険者達。カウンターに群がっている。氷に吸い寄せられるようにテーブルからカウンターに次々と移動して、その場で一気飲みして、すぐに次のエールをもらおうとする人も出ている。

「一旦席に戻れ、その場で飲んだからってすぐに注いでやらないからな」

「そんな~」

「冷たいエールなのに」

 待っている冒険者達は並び直せと叫び、一気に騒がしさが増していた。

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