第274話 作業初日(3)

「王都の騎士学校は貴族の子息や市井の武芸に秀でた者達が集まる場所だ。座学も他の高等教育機関と変わらぬ水準。軍部の中枢には騎士学校出身者が多い。私はそこで同窓生らと切磋琢磨してきた」


 その学校を首席で卒業したことは存じ上げております。


「庶民も入れるの?」


「試験に受かればな」


「やっぱベルナティア様って凄く強いの?」


「我がファインバーグ家は初代剣聖の直系、源流派の宗家だ。強くなければファインバーグは名乗れない」


 誇り高い返答に、アレックスは「あれ?」と気づいた。


「その名前、聞いたことある。トーマス様の剣の流派だ。ベルナティア様、トーマス様を知ってる? シュヴァルツ様の補佐官の」


「ああ、トーマス・ベインか。知っている。確か二期下の後輩だ。騎士学校で教える剣術は源流派だから、軍には同じ流派の者がゴロゴロいる」


 世間は意外と狭いものですね。


「後輩だったの? 学生の頃のトーマス様ってどんな風だったの?」


 好奇心いっぱいの庭師に、侯爵は上目遣いに記憶を辿り、


「彼が入学した時、女子が騒いでいたな、かっこいい新入生が来たって」


「あー、トーマス様って顔だけはいいもんね」


 失礼ですよ、アレックス。


「その後は実技でも座学でも目立った噂を聞いたことはない」


「本当に顔しか取り柄がないんだね、あの人」


 だから失礼ですって、アレックス!


「主観だが、私はオリーの方がかっこいいと思う」


 ベルナティア様も張り合わないでください。彼女は指に猫をじゃれつかせながら、


「君達はトーマス・ベインと仲がいいのか?」


「良くして頂いてます」


「シュヴァルツ様にくっついて、たまに遊びに来るよ」


 私とアレックスの答えに、ベルナティア様は「そうか」と頷いてから、微かに眉間を寄せて、


「あの者とはあまり……」


「え?」


 小さな呟きを聞き返した私に、彼女は首を横に振る。


「いや、忘れてくれ。私が口を出すことではない」


 ……なんだろう?


「あ」


 私がもう一度尋ねるより先に、


「ねえ、ベルナティア様とシュヴァルツ様ってどっちが強いの!?」


 アレックスはもう次の話題に移っていた。近衛騎士団総長はソファに深く背を│もたれ、意味ありげな笑みを浮かべる。


「そうだな、闘技場でルールに則って試合すれば、三度に一度は勝てるだろう」


 おおっ! と前のめりになるアレックスに、彼女は「ただし」と付け加えた。


「戦場では絶対に対峙したくない。シュヴァルツ卿はそんな相手だ」


 真剣な目で言われて、ゾクッと総毛立った庭師は身震いする。


「さあ、作業の続きをしよう。私は何をそればいい?」


「じゃあ、気に入った造花を何個か選んでください」


「私はお茶のおかわりを」


 ベルナティア様の声を合図に、私達はそれぞれの仕事に戻った。



────

たまに用語が変わってたりしますが読み流して頂けると幸いですよ!(未だに手探り状態)

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