第237話 星繋ぎの夜会(7)
「まあ、本当に?」
「ええ、リズ様のお産が始まりそうなのですって」
「それはおめでたいですね!」
フォルメーア王国国王ブラムウェル陛下は現在までに王妃との間に王子三人と王女一人、三人の側室との間に二人の王子と四人の王女をもうけている。
三番目の側室であるリズ様のご懐妊は夏頃に政府から発表されていたが、もうすぐお生まれになるなんて。これは新年から素晴らしい話題だ。
因みに、兄姉である十人の王子・王女の半数が既に成人し、家庭を持っている方も多い。
「陛下は少しでもこの夜会に顔を出したいと仰っていたと、宰相閣下とうちの父が話していたわ」
宰相閣下と交流があるなんて、さすが伯爵家!
あ、でもシュヴァルツ様も普通に王国の首脳陣と交流してるんだよね。というか、シュヴァルツ様自身が首脳陣の一人か。……改めて私、凄い場所に来ちゃってるんだなぁ……。
暫しロクサーヌ嬢との楽しく語り合っていると、
「お話中、失礼します。ガスターギュ閣下ですか?」
またも声を掛けられた。今度は中年の男性だ。彼は慇懃にお辞儀をすると、落ち着いた口調で言う。
「私はクロード伯爵家のソロンと申します。折り入って閣下にお伺いしたいことがございまして、我がテーブルにお越し頂けないかと」
シュヴァルツ様は煩わしげに眉間にシワを寄せた。多分、「連れがいるので」と断ろうと唇を開いたのだろうけど――
「閣下は北の辺境で堤防を兼ねた要塞をいくつも管理なさっていたとか。我が領地も似た地形でして、ぜひ砦を建てるにあたってご助言願いたく……」
――そこまで聞いて、口を閉じた。
これ、断れない案件ですね。
夜会の目的は社交……つまり、人脈作りだ。人脈は仕事にも繋がる。シュヴァルツ様がフォルメーア王国の将軍として禄を食んでいる以上、避けられない事態もある。そして、クロード伯爵の領地は王都から遠い。せっかく王都に来た機会に防衛の専門家の意見を聞きたいと考えるのは尤もだ。
「相分かった」
シュヴァルツ様は頷いて立ち上がった。そして、ちょっと困ったように私を見下ろし、
「行ってくる」
「はい」
私のことはお気になさらず。大人しく壁の花ならぬテーブルの置物になっていますので。微笑んで見せると、彼は少しだけ目を細めてから去っていく。
「行ってしまわれたわね」
もう少しお話したかったのにとため息をつく同席者に、私は笑顔を向ける。
「ロクサーヌもご用があればいつでも席を離れて大丈夫ですよ」
いつまでも私の相手をさせるのは申し訳ないと思ったのだけど、
「あらやだ、追い払わないでよ。わたくしはミシェルとまだまだ話足りないわ」
令嬢はコロコロと笑いながらソーダグラスを傾ける。私が一人にならないよう気を遣ってくれているのかな? 申し訳ない気もするけど、嬉しいな。
「お待たせいたしました。どうぞお召し上がりください」
令嬢二人になったテーブルに、五枚の大皿を持ったゼラルドさんが帰ってきた。右手に一皿、左手に四皿載せて歩き、陶器の擦れる音一つ立てず配膳する様は流石です。
四人掛けの丸テーブルを埋め尽くす色とりどりのカナッペやピンチョス、小振りのグラスデザートに、ロクサーヌは目を見張る。
「あらあら、ミシェルもたくさん食べるのね」
……それは誤解ですっ!
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