第214話 ミシェルのドレス(1)
――斯くして、年越しに向けて大忙しなガスターギュ家は、更に忙しさを加速させたわけですが……。
夕食後、トーマス様をお見送りしてから、私はダイニングの片付けを使用人仲間に任せて大急ぎで二階の衣装部屋に駆け込んだ。
ここには各部屋に放置されていた前住人の衣装を一緒くたに詰め込んである。普段使いできるワンピースやシャツやボトムスは私やアレックスやゼラルドさん用に丈を直してしまった(シュヴァルツ様には入る服がありませんでした)けど、よそ行きのドレスは手つかずのままだ。
「
肝心なのは、ドレスだ。さて……どうするべきか。
ハンガーに吊るされた十数着のドレスを前に、唇に手を当ててブツブツ思案していると、
「ミシェル」
赤髪の庭師がひょこっと室内に顔を覗かせた。
「ゼラルドじーさんがミシェルを手伝ってやれって」
そう言いながら彼女は私の横に並んでドレスを眺めた。
「これ、パストゥール家の奥様とお嬢様のドレスだろ? これのどれかを今度の夜会で着るの?」
「ええ、そうしようと思うんだけど」
頷く私にアレックスは「ふうん」と鼻を鳴らすと、つまらなそうに手近なドレスの裾をつまみ上げた。
「上等な生地だよな。
「それは、簡単に売れる物じゃないからだよ」
私は年少者の疑問に答える。
ドレスは基本オーダーメイドで、既製品でもサイズ直しは必須。そしてデザインに流行り廃りが激しい。だから、どんなに良い生地を使っていても、体に合わず流行遅れの古着に高値はつかない。それに、急な引っ越しに嵩張る衣類は邪魔になる。だから一着ずつ売るより、家財として残して屋敷の買取額にプラスしてもらった方が得だったのだろう。食器や家具や練習用のバイオリンを置いていったのも同じ理由だ。
ちなみに、この家には貴金属は残っていなかった。アクセサリー類にも流行りはあるけど、宝石の価値にはあまり変動がなくバラして売るのが容易なので、全部持っていったらしい。
「ってことは、ここに残っているのは流行遅れのいらないドレスなわけ? そんなの王様が来る夜会で着るの?」
呆れた声を出すアレックスに、私は苦笑を返した。
「そのままは着ないよ。私に合うようにリメイクするの」
幸いパストゥール家のナタリー嬢は私と同年代で、この家が空き家になったのも約二年前だから、ドレスの型もそれほど古い感じはしない。ナタリー嬢の方が私より背が高かったみたいだから、裾丈やウエスト位置を直して今風なアレンジを加えれば見栄えのするドレスになるだろう。
「問題はどの色にするかよね……」
私は目についたドレスを取ると、体に当ててみた。
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