第187話 護身術を習おう(4)
アレックスとゼラルドさんが修練と称して薪割りや水汲みをしてくれている間に、私は家の中の仕事をします。
「朝食はどういたしますか?」
「半端な時間だな。お前達の昼食の時に一緒に食べてから出かける」
「畏まりました。では、お茶のご用意だけしますね」
午後から出勤のシュヴァルツ様の予定を確認しながら、お屋敷に戻る。使用人だけの時は
献立を考えながら窓の外に目を遣ると、太い薪を前にアレックスに斧の振り下ろし方を指南するゼラルドさんが見えた。……我が家の剣術教室は実益も兼ねていてありがたいですね。
でも、当主が将軍で、家令が元軍人。庭師まで剣士見習いとなると……。
……非戦闘員は私だけってこと?
お屋敷も要塞なのに私一人だけ無防備って、それって将軍家のメイドとしてどうなの?
海賊の襲撃の時も、イノシシの時も、私は隠れて見ていることしかできなかった。
共に剣を並べて戦うとまではいかなくても……自分の身くらい自分で守れるようになった方がいいよね?
悩みながら歩いていると、
「おい、ミシェル!」
急にバッと視界を大きな掌が遮った。
「わっ!?」
鼻にぶつかるギリギリの距離で、私は慌てて立ち止まる。
「ど、どうしたんですか? シュヴァルツ様。急に……」
隣を歩く彼を見上げると、
「それはこちらの台詞だ」
呆れた声が降ってくる。
「どこまで進む気だ?」
翳された手が引かれると、私の視線の先にあったのは、廊下の突き当りの壁。
「あまりにも躊躇いなく進んで行くから、俺には見えない異界に続く道でもあるのかと思ったぞ」
……そんな別の物語が始まりそうな展開にはなりません。
「すみません、ちょっとぼんやりしていて……」
シュヴァルツ様が止めてくれなかったら、壁に無謀な戦いを挑むところでした。
恐縮する私に、彼は苦笑する。
「気をつけろ。危険な時にいつも俺がいるとは限らないのだからな」
……そうですよね。もっとしっかりしないと。その為に……。
「シュヴァルツ様、お願いがあります」
私は決意と共に口を開いた。
「私に護身術を教えて下さい!」
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