第156話 怪談、その後(1)
カタカタと木枯らしが窓を揺らす音にさえビクッと肩を震わせてしまう。
私は首元から忍び込んでくる冷気に、鼻まで毛布を引き上げた。
……うぅ、昼間に怪談話なんかしたから、妙に目が冴えて寝付けないよぉ……。
目を瞑ると瞼の裏に蠢く白い影が見えそうで怖い。
もうすっかり慣れ親しんだ部屋の天井の染みも、今夜は虚ろな亡者の瞳に見えてしまう。
……ダメ、ダメ。
こんな妄想で睡眠時間を減らしちゃダメ。
使用人の朝は早いのだ。しっかり休んで万全な体調で仕事に望まないと。お給金を貰ってるんだから、手抜きは出来ない。
私は寝返りを打って身体を丸め、蛹のように毛布に包まってギュッと目を閉じる。怖いことでなく、羊を数えよう。もこもこ可愛くてあったかいぞ。そして、うつらうつらと降りてくる睡魔に委ね――
ガタンッ!
――かけた、その時。どこからか物音がした。
風の音かと思ったけど、
トットットッ……。
音はもっと近く……建物の中から聴こえてきている。耳を澄ますと、発生源はどうやら天井のようだ。
屋根裏部屋の掃除道具が倒れたのだろうか?
でも、それにしてはまだ音が続いているのはおかしい。
ネズミ? それとも……。
――先代パストゥール伯爵は、屋根裏から……。
アレックスの話が脳裏に蘇り、私は両手で耳を塞いだ。
……おばけなんていない。おばけなんていない。きっと風が強いから屋根が揺れているだけ。
口の中で呪文のように繰り返す。
怖いと思うから風の音も怪異になるんだ。気を強く持っていれば大丈夫。
……いつの間にか、音は止んでいた。
ほら、やっぱり。
私はふうっと息を吐いて身体の力を抜く。毛布を肩まで下げて、仰向けになって枕に後頭部を預ける。
さあ、もう遅いから本当に寝なくちゃ。
明日もはや――……。
私が何気なく天井を見上げて……凍りついた。
部屋の隅、梁の隙間から視線を感じる。
目だけで追うと、そこには宵闇にも鮮やかに映る、金色の二つの光が……!
「……!?」
――私が覚えているのは、そこまでだった。
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