第144話 庭師親子(3)
「では、アレックスと一緒にお庭のお手入れをお願いします。危険なので、慣れるまではアレックスから離れないでくださいね」
「畏まりました」
私の言葉に、ジムさんは恐縮したように頭を下げてから、
「しかし、このお屋敷の庭は私の父の代から手掛けてきたもの。慣れるも何も……」
苦笑しながら辺りを見回し……ピシリと凍りついた。
「な……な……な……」
青褪めた唇を震わせ、
「なんだこりゃーーー!?」
髪を掻きむしって盛大な叫びを上げる。
「正門前の松があんな不格好に! イチイの生け垣も抜かれている! 芝はあちこち剥がした跡があるし、あんな目立つ場所に不似合いな菜園がっ!」
……そのリアクション、見覚えがあります。
大興奮の父親は、肩を怒らせ娘に目を向ける。
「お前か? アレックス。庭を滅茶苦茶にしたのは!」
「いや、シュヴァルツ様」
「はあ? なんでご当主様がそんな暴挙を!?」
愕然としたジムさんは、さらにありえない景色を発見してしまった。
「ああ、あんなところに堀が! あそこに水を通したら、木が根腐れを……」
気づいたら最後、脇目も振らず芝生を突っ切って槍柵の方へと突進していく前家主時代の庭師に、現使用人達は真っ青だ。だって、そっちは……!
「親父! あぶな……」
必死でアレックスが追いかけ手を伸ばすが……遅かった。
ベチッ!!
踏むと板が跳ね上がってくる仕組みの罠が、あやまたずジムさんの顔面にクリーンヒットした。
「お、親父ぃぃいいぃぃ!」
ゆっくりと仰向けに崩れ落ちる父親に、アレックスは我を忘れて駆け寄って……、
ズボッ!!
ほら、落とし穴の存在も忘れてたでしょ!
倒れた中年男性と、視界から姿を消した少女。
私とゼラルドさんは罠を避けながら事故現場に急行する。
「ジムさん! アレックス!」
「いやはや、なんという……」
……とりあえず、どちらの罠にもスパイクが付いていなかったのは不幸中の幸いでした。
私とゼラルドさんは、罠に嵌った庭師親子の救助と介抱に午前中を費やすることになりました。
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