第61話 誕生日プレゼント(決定)

「とりあえず、使用人を増やす件は置いておいて」


 シュヴァルツ様は仕切り直しする。


「お前の誕生日プレゼントは決まったのか? ミシェル」


「え!?」


 まだその話題、引っ張りますか!?


「俺は根に持つ方だぞ? 祝ってもらったからには、祝い返さねば気が済まん」


 困惑する私に、将軍は堂々と宣言する。

 いや、慶事を根に持たれましても。

 ……うーん、どうしよう。

 調理器具や裁縫道具は備品として発注されちゃうし、近場の外食も経費って言われちゃうし……。

 あ、そうだ!

 私は悩んだ末に、一つの結論に辿り着いた。


「では、休暇を頂けますか?」


「それは勿論構わないが……大丈夫なのか?」


 訝しげに眉を寄せるシュヴァルツ様に、私は自信を持って首を縦に振る。今度は不安に嘆いたりしない。だって、


「私のではなく、シュヴァルツ様の休暇を私にください」


「……は?」


 意図が読めずにポカンとする彼に、私は説明する。


「次のシュヴァルツ様のお休みの日を、一日私にください。お出かけしましょう」


「出かけるって……どこへ?」


「海なんてどうでしょう?」


 王都から一番近い海岸までは馬車で数時間。早朝出発して昼間は海岸で過ごして夕刻前に出れば、夜の遅くない時間に帰って来れます。


「海か……」


 シュヴァルツ様はぼそっと、


「俺、海見たことないぞ」


 それが狙いです!

 彼が駐留していたのは内陸の国境地帯。近くに海はありませんでした。なので、せっかく遠い地まで来たのですから、王都周辺を観光してもらいたいのですよ!

 祖父と母が生きていた頃はよく海に連れて行ってもらっていたので、道案内もばっちりです。

 海の市場には街の市場に並ばないカラフルな魚がいるから、きっとシュヴァルツ様も楽しんでくれるはず。

 彼は腕組みして天井を見上げてから、コクリと頷いた。


「ミシェルがそれでいいのなら」


 良かった。やっと誕プレ問題が片付きました。


「して、海まではどうやっていくのだ?」


「馬車で三・四時間ですかね」


 王都から港街までは乗合馬車が何本も出ている。交通手段には困らないだろう。……と思っていたら、


「では、馬車を買うか」


「え!?」


「馬はプラト産がいい。あの産地の馬は脚が強い。客車は耐火金属フレームで防矢ネットを張って……」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 私は大慌てで椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。


「なんで日帰り旅行に馬車買っちゃうんですか!?」


 しかも、客車の仕様が明らかに装甲車です。


「いや、家に一台あったら便利かと思って」


 悪びれない将軍に、眩暈がしてくる。


「……台車感覚で馬車を購入しないでください……」


 衝動買いの規模が二桁くらい大きいです。

 ……危ない。私が迂闊な発言をしたばかりに、旅費よりも高い馬車プレゼントをもらうところだった。


 結局、私の強硬な反対にシュヴァルツ様が折れて、馬車はレンタルすることになりました。

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