第44話 二人でお出掛け(2)

「ありがとうございましたぁ~!」


 可愛い給仕さんに見送られて、店を出る。


「甘いモンだけで腹を満たすのも、たまにはいいな」


「そうですね」


 満足そうにお腹を擦るシュヴァルツ様に、スペシャルジャンボパフェを三度もおかわりした光景を思い出し、私はクスクス笑う。


「ほんとに美味しかったですね」


 しみじみ言うと、彼はちょっと困ったように、


「ミシェルの飯も美味いぞ?」


 ……そこら辺、対抗意識はないので気を遣わなくて大丈夫ですよ。

 アイスクリームやチョコレートはお家の機材では作れませんから、外食の醍醐味としてたっぷり満喫してください。私的には上げ膳据え膳で大満足です。プロのご飯最高。


「これから、どうしますか?」


 まだお昼過ぎで、日が暮れるまでは時間がたっぷりある。もう少し街を歩きたいな、と思っていたけど、


「帰って庭をいじろうと思う。明るいうちに、色々掘ったり埋めたりしたい」


 ……何を埋める気ですか?

 でも、シュヴァルツ様にはやることがあるのか。それなら仕方ない。休日の全部を一緒に過ごすこともないもんね。ちょっぴり寂しい気もするけど……自由は尊重された方がいい。


「ミシェルはどうする?」


「私はお買い物して行きます。休日には平日と違った市が立つので」


 たまに異国のキャラバンも来るから、珍しい布があったら仕入れたいしね。


「そうか。ではまた後で」


「はい、お気をつけて」


 私達はその場で別々の方向に歩き出して――


「そこのお嬢さん、美容に興味ない?」


 ――三歩目で路地から声を掛けられた。


「舶来のいい品があるのよ」


「今、無料で試供品を提供してるんだ。そこの店まで来てよ」


 突然現れた派手目の男女が私の進路を塞ぎ、あれよあれよと路地裏に引き込もうとする。


「あの、そういうの興味ないので。大丈夫です」


「いいから、いいから」


「タダだよ! お得だよ!」


「いえ、本当に結構ですので……」


「遠慮するなって!」


 断ってもぐいぐい来る。ど、どうしよう……と狼狽えていると、


「コラッ!!」


 いきなり頭上から雷のような怒号が響いた。多分、コラって言ったんだと思うけど、実質「ゴルアァァ!!」に聴こえる咆哮。振り仰ぐと、当然そこにはシュヴァルツ様。


「貴様ら、何をしている? 憲兵を呼ぶぞ!」


「ひぃぃっ!」


「ごめんなさいぃっ!」


 声だけで吹き飛ばされそうな勢いに、腰を抜かしかけた男女は這々の体で逃げていく。


「あ、あの、ありが……」


 お礼を言いかけた私に、彼ははぁっと露骨に肩を落とした。


「何故お前は、街に来る度に絡まれているんだ?」


「えぇ? た……たまたまですけど?」


 平日買い物に来る時は、そんなことありません。休日、人通りの多い時に限ってです。……多分。

 しかし、将軍は納得していない様子で、


「何がたまたまだ。俺が見た時は必ず絡まれているぞ。二回中二回、確率十割だ!」


 ううっ。暴論ですが、そこだけ切り取られると事実です。

 シュヴァルツ様は「ったく……」と悪態をつくと、諦めたように髪を掻いた。


「俺もお前の買い物についていく」


「え!?」


 思ってもみない申し出に、私はびっくり仰天だ。


「いえ、そこまでして頂かなくても」


「もう決めたことだ。ミシェルがかどわかされたらたまらん」


 心配性なシュヴァルツ様に私は苦笑を返す。


「拐かすって、子供じゃないんですから」


「……子供じゃないから困るのであろう」


「え?」


 何だろう? 最後の言葉、小さすぎてよく聞き取れなかった。聞き返す私を彼は一瞥して、


「どこに行きたいんだ?」


 ……この方、一度言い出すと引かないんだよね。じゃあ……。


「布屋さんに」


 せっかくだから、次に作る服の生地を選んでもらいましょう。


「ん」


 頷いて歩き出すシュヴァルツ様に、私も並んでついていく。

 私の用事に付き合わせるのは申し訳ないけど……一緒に過ごせるのは、やっぱりちょっぴり嬉しかった。


 ……来週は、私が庭仕事をお手伝いしますね。

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