第33話 遭遇

「ん! おいしっ」


 小皿に載せた鍋の中身を味見して、舌鼓を打つ。

 今日のメニューは鶏肉のサワークリーム煮です。ちょっと酸味のあるクリームが、鶏モモの脂によく合うのよね。玉ねぎと三種類のきのこを一緒に煮て、彩りに別茹でのブロッコリーと人参を添えます。

 メインディッシュの色に合わせて、主食は白パン。副菜はボウルいっぱいの生野菜サラダ。

 最近お野菜が高いから、お庭に菜園を作って育てようかな?

 でも、畑に適した遮蔽物の少ない日当たりの良い一角は、シュヴァルツ様が「埋火うずめびを仕込むのにいい平野だ」って言ってたから、あとで何かに使うのかしら。

 ……ウズメビってなんだろう?


 夕食の用意はできたのだけど、まだシュヴァルツ様がお帰りになられない。

 今日、遅くなるって言ってなかったよね?

 お仕事やお付き合いの都合で予定がずれることなんてよくあることだから、いつもは気にしないんだけど……今日はなんだか気になる。

 ちょっと、外までお迎えに行っちゃおっかな?

 暗くなったら一人で外出するなって言われてるから、門の前までね。

 玄関のドアを開けると、冷えた風が吹き込んできて思わず身震いする。

 夕暮れが宵に変わる藍色の空の下、お屋敷の門の前に大きな人影が見えた。あれは、シュヴァルツ様だ。


「シュ……」


 声を掛けようとした瞬間、私は彼が誰かと話しているのに気づいた。その様子は穏やかではなく……口論?


「……から、帰れと言っておる」


「いいじゃないですか。ちょっとご挨拶を……」


 面倒くさそうにあしらうシュヴァルツ様に、もう一人、小柄な男性が食い下がっている感じ。……いえ、比較対象がシュヴァルツ様だから背が低く見えただけで、実際は平均身長くらいでした。

 私は玄関ポーチから小走りに門の前まで向かった。


「シュヴァルツ様、どうされましたか?」


 駆け寄る私に彼は閉まっている門の向こうから、「家に戻ってろ」と返す。


「でも……」


 私が戸惑っていると、シュヴァルツ様の巨躯の影からひょこっと、濃い金髪の頭が飛び出した。

 二十代前半くらいの、細身の青年。イマドキ風のシュッとした美形さんだ。

 青年は私の姿を目に留めると、信じられない物を見たかのように仰け反った。


「実在したんだ……」


 ……はい?

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