二体のそれ(500字小説)
「こっちへおいで」
ふと声がし、僕は首を後ろに回した。そのには天使とも悪魔とも言える存在が立っている。立っているという言い方は悪いな。浮いている。それは僕を上から下まで一回見たあと、言ってきた。
「こっちには幸せが待ってるよ。辛いことなんて何もないよ」
今の僕にとってこの言葉は嬉しい以外の何物でもなかった。それは僕に手を差し出す。僕はゆっくりとその手を掴もうと、腕を伸ばした。すると「何か」が足を掴んできた。
「行っちゃだめ。何があっても辛くても、そっちに入っちゃだめだよ」
それもまた天使のような悪魔のような姿をしていた。
「あなたの好きな人たちをあっちに行ったら失うんだよ。思い浮かべてごらん」
僕は頭の中で想像してみた。たくさんの思い出。嫌な思い出の方が多い、がその中にちらほら見える楽しかった思い出。
僕は伸ばした腕を下ろした。そして足元にいるそれの手を掴んだ。最初に話しかけてきた方のそれは言う。
「戻ってもいいことないのに」
「あるから戻るんだ」
僕はそう告げ、それに導かれて光の中に入っていった。
パッと目が覚めた。外では鳥が鳴いている。……朝か。……今日も頑張ってみようかな。僕はベッドから降り、学校に向かうため支度を始めた。
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